創業の際には初期費用や運転資金を確保するためどのような方法で資金調達すればよいのか頭を悩ませることも少なくありません。
たとえば融資を受けて資金調達する場合には、審査のハードルが高いのではないか?といった不安がまず頭に浮かぶことでしょう。
ただ、借入れ以外の資金調達方法でも審査はツキモノなので、手元のお金を増やすことができるような準備が必要です。
そこで、創業のときの資金調達方法として一般的に活用されている創業融資の審査をクリアするポイントをお伝えしていきます。
自己資金があれば何も問題はない?
創業の際に必要な資金を、すべて自己資金で賄うことができるのなら難しい審査を経て融資を受け、資金調達する必要はなくなります。
しかし創業しようと考える多くの経営者が、銀行や信用金庫などの金融機関を頼り、必要な資金を貸してもらえないか相談しています。
ただ、スムーズに銀行などが創業のための資金調達に協力的で、審査も安易にクリアできればよいですがけっしてそうではありません。
実績が十分でないことや、担保として差し入れる資産を保有していないこと、さらに連帯保証を求められるなど審査をクリアできないことはめずらしいことではないようです。
このような場合、公的な創業者向け融資制度である日本政策金融公庫の「新創業融資」であれば、創業者でも審査をクリアし資金調達につなげやすいと考えられます。
日本政策金融公庫とはどのような金融機関?
日本政策金融公庫は政府が100%出資している金融機関であり、経済を活性させるために設立されました。そのため、民間の銀行や信用金庫などの金融機関からお金を借りたくても審査が通らず、融資を受けることができない個人事業主や中小企業にも資金を貸し付けています。
政府系金融機関であるため、預金の預かり業務は行っておらず、創業資金融資にも積極的です。起業したいという方にも味方になってくれるため、資金調達の方法としてうまく活用するとよいでしょう。
特に創業者が資金調達の方法として活用しやすい「新創業融資制度」について説明していきます。
新創業融資制度の内容
日本政策金融公庫は民間の金融機関を補完する分野で、個人事業主や中小企業の資金調達を支援しています。
中でも新創業融資制度は、
- 融資額 3,000万円(うち運転資金1,500万円)
- 金利 基準利率2.46~2.85(令和2年8月3日現在、年利%)
- 自己資金 創業資金総額の1/10以上
- 連帯保証 不要
- 担保 不要
- 審査期間 1か月程度
という内容となっており、無担保・無保証により最大3千万円まで融資を受け資金調達することが可能です。
新創業融資の審査で重視される項目とは?
審査では、自己資金を重視してその内容が確認されます。
新創業融資制度の審査で重要となるのが自己資金です。審査段階で実施される面談の際に、通帳を担当者に見せて内容を確認してもらいます。そのときにチェックされるのは以下の項目です。
①借入希望金額に対する自己資金の所有金額
ポイント:自己資金として所有しているお金は、これまでの給料などが糧となっているのか、自己資金の金額と給料金額の整合性なども確認されます。また、消費者金融などから借入れたお金でないか、個人(親族や知人など)から振り込みがないかなども確認されることになります。
親族や友人から一時的にお金を借り、通帳に預金して残高を多く見せようとする見せ金は通用しないということです。自己資金をどのように貯めたのか、その過程が重要となるため起業するタイミングの1年以上前から貯め続けておくようにしてください。
②公共料金や税金などの支払いは適切に行われているか
ポイント:毎月発生する家賃・電気・ガス・水道・通信費などの公共料金や、所得税・住民税・法人税・事業税・消費税などの税金は遅れず支払いが行われているか確認されます。
公共料金や税金の支払いが遅れている場合には、審査に通過できなくなる可能性が高くなるので注意しましょう。
なお、日本政策金融公庫の審査では、源泉徴収票や確定申告書、半年分の通帳口座の履歴により税金の納付状況は確認されます。未納や滞納をごまかすことはできませんので、返済期限を守り納めておくことが必要です。
国民年金や国民健康保険については、確認に必要な書類の提出はないため、審査基準にないとも考えられます。ただし遅れず納めておいたほうが審査において安心なため、もし未納分があるのなら解消しておきましょう。
③一度に多額の不審な入出金はないか
ポイント:自己資金が少ない場合、融資を受けた後の返済負担が相対的に高くなってしまいます。起業に向け資金を貯めようとする努力はできているかを確認されると認識しておいてください。
事業開始前後に税務申告を終えていなければ、創業のときに創業資金総額の10分の1以上の自己資金が必要になります。
創業資金とは創業する上で必要なお金ですが、確認される自己資金は起業に向け準備したことにより蓄積された資金の金額です。
預貯金の通帳や保険の積立金、上場株式といった資料で保有する自己資金の金額を確認されます。融資制度の申込限度金額は自己資金の9割程度とされていますので、自己資金を合わせて100%になるという計算です。ただし審査を通過するためには、10分の1ではなく3分の1以上は目指したいところといえるでしょう。
事業計画書の内容もスムーズな資金調達へのポイントに
また、審査においては事業計画書を提出することとなりますが、その内容も大切なポイントです。
次の項目を重視しながら要点を押さえた内容でまとめることが重要です。
〇創業計画書
創業の動機・自身の経験・販促方法・強みなどを詳しく記載していきます。
〇売上計画書(3年分)
自身の経験や販促方法など、過大な計画ではなく厳しめの計画を立てておくことがポイントです。
〇損益計画書(3年分)
開業後に必要な資金を1か月単位で計算し記載します。原価など売上により変動する部分は特に注意して計算が必要です。
〇資金繰り表
実際のキャッシュの出入りを表す資料のため、1か月単位で計算し記載が必要です。手元のお金が枯渇すれば倒産してしまいますので、最も重要な資料となると認識しておきましょう。
新創業融資制度の審査に通過できないケースとは?
日本政策金融公庫は、民間の銀行などから融資を受けることができない個人事業主や中小企業にも積極的に融資を行っていますし、創業資金への貸付も前向きに対応してくれます。
それなのに新創業融資制度の審査に通過できず、資金調達につながらないこともあります。
民間の金融機関であれば、担保として不動産など差し入れることができれば信用面で問題があったとしてもお金を貸してもらえる場合もあるでしょう。
しかし新創業融資制度は原則、無担保・無保証となっているため、信用力や返済能力が審査において重視されると認識しておくべきです。
ただし創業段階での信用力や返済能力を判断するため、今後のビジネスの成長性や将来性、事業を支える創業者の熱意や能力が審査において重要となると理解しておいてください。
個人の信用情報に難がある場合は資金調達につながりにくい
過去に金融機関に対する返済が遅れたことがあるという場合、日本政策金融公庫の審査でも不利になってしまいます。
金融機関で利用した実績は、個人信用情報機関に保管されています。日本政策金融公庫で行う審査のときのも参照されることになるため、クレジットカード・カードローン・キャッシング・奨学金・携帯電話の割賦販売代金・住宅や自動車などのローンなどの支払いを延滞・滞納している場合は審査に通りにくくなると認識しておいてください。
滞納を解消していない状態で申し込みを行っても、遅れている借金を返済するために借り換えようとしていると判断されてしまう可能性もあります。
しかし日本政策金融公庫では借り換えは行っていませんので、もしも信用情報に不安があるのなら下記の信用情報機関のサイトから信用情報を確認してみるとよいでしょう。
- クレジットカードやカードローン「CIC(株式会社シー・アイ・シー)」
- 消費者金融系「JICC(日本信用情報機関)」
- 銀行系「全国銀行個人信用情報センター」
その他審査に通過できず資金調達に至らないケース
他にも自己資金が極端に少ない場合や、通帳の記載が極端に少ないという場合、開業したい業種の経験がない場合には審査に通りにくくなる可能性があります。
審査を有利に進めて資金調達につなげるための対策
日本政策金融公庫で行われる審査に通過し、資金調達につなげるためのポイントは理解できたことでしょう。
そこで、起業前に実践しておきたい融資の審査に向けた次の対策を確認し、できることから始めておいてください。
自己資金と通帳口座の管理
新創業融資制度では自己資金の金額と、そのお金をどのように貯めたのか経緯を確認されます。そのため毎月勤務先から支払われる給料は、口座に預金しておくようにしましょう。
タンス預金からの補填や見せ金は日本政策金融公庫では通用しにくいと考えられるため、少しずつ積み重ね貯めることがポイントとなります。
その他、公共料金などの支払いが適切に行われていることを確認できるように、銀行口座から引き落としにしておいたほうが安心です。
加えて消費者金融などからお金を借りるとマイナス評価につながるため、先にノンバンクから資金調達しないことも意識しておいてください。
創業後の将来性を見込んでもらうために
販売する商品や提供するサービスの内容がどれだけすばらしくても、顧客ニーズに合致していなければ売れません。商品やサービスの内容より、どれくらい売れて収益を生むことができるのか、貸したお金を返済に充てる資金を利益から捻出できるようになるかを重視された審査が行われます。
そのためすでに確保している顧客や顧客候補のリストがあるのなら、事業計画書の添付資料として提出しておくとよいでしょう。
また、どのように集客するかなども尋ねられることがあるため、しっかり答えることができるようにしてください。
新創業融資制度は、まだ実績のない段階で将来性などを見込み、資金調達の支援を行う制度です。そのため人に貸す融資とも言われており、性格や人柄が審査に影響することもあるようです。
資金調達を成功させるためにも、融資担当者との面談のときは、自信を持った態度で臨むことも必要といえます。
まとめ
資金調達する方法や流れはいろいろありますが、創業の際や事業を開始したばかりのベンチャー企業の場合、民間の金融機関からの借り入れで資金調達することはあきらめてしまいがちです。
しかし日本政策金融公庫の新創業融資制度なら、創業を応援する形で民間の銀行などからお金を借りることが難しいケースでも、審査を通過し資金調達できる可能性は低くありません。
ただしどのような場合でも審査を通過できるわけではないため、自己資金の準備や公共料金・税金の滞納の解消など最低限行っておかなければならないこともあります。
そして重要になるのが事業計画書の作成ですので、ビジネスの将来性を見込んでもらえるように、ポイントを絞ってわかりやすい内容でまとめるようにしましょう。
また、新型コロナウイルス感染症拡大の影響による融資制度なども設けられているようなので、イベント中止や外出自粛の影響で売上が下がってしまった企業などは、資金調達の方法として検討してみるとよいでしょう。