ファクタリングと下請法|親事業者の売掛金でも資金調達に利用可能?
商品などを販売したり、依頼されていた業務やサービスを提供すると売上が発生します。ただ、その場でその代金を現金で受け取ることはなく、後日、請求書などを渡し期日に支払ってもらう掛け取引が一般的です。
ここで発生するのが売掛金という売掛債権ですが、この売掛債権を回収するまでの期間が長くなると資金繰りは悪化してしまいます。
そのため、売掛債権を回収できる期日よりも前に現金化するファクタリングという資金調達の方法が中小企業などで多く利用されるようになりました。
では、保有する売掛金が親事業者に対するものの場合、それでもファクタリングを使って資金調達に活用させることはできるのでしょうか。下請法などでどのような取引において、取引先が親事業者となるのかなど、その内容をご説明します。
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下請法で定められている親事業者の定義とは?
ファクタリングを利用する場合にも、ファクタリング会社では審査が行われます。銀行融資で資金調達しようと申し込みを行ったものの、審査で断られてしまったという場合、ファクタリングの申し込みを行っても結局また審査で断られると思うかもしれません。
ただ、ファクタリングで行う審査は、基本的に売掛先企業の経営や財務状態を重視した内容となるため、仮にファクタリングで資金調達しようとする企業の財務状態が悪化していても、信用力の高い売掛先企業であれば利用できる可能性は高いといえます。
しかし、ファクタリングで売却しようとする売掛債権が親事業者のものだった場合はどうでしょう。
親事業者とは、業務の下請取引について下請事業者に業務委託を行う事業者のことを指しています。
また、下請法(下請代金支払遅延等防止法)でもどのような事業者が親事業者になるのか定義もされています。
親事業者と下請事業者の定義
下請法の第2条第1項から第8項では、下請法の対象となる取引は事業者の資本金規模と、取引内容で次のように定義するとされています。
①物品の製造・修理委託および政令で定める情報成果物・役務提供委託を行うケース
製造委託や修理委託の契約を締結している場合、それぞれ資本金などによって親事業者と下請事業者になるかが決まります。
- 親事業者(資本金3億円以上)→下請事業者(資本金3億円以下・個人を含む)
- 親事業者(資本金1千万円超3億円以下)→下請事業者(資本金1千万円以下・個人を含む)
資本金3億円以上の事業者が、資本金3億円以下の事業者(個人事業主を含む)に対し、製造や修理を委託した場合には、資本金3億円以上の事業者は親事業者、資本金3億円以下の事業者は下請事業者となります。
資本金1千万円超3億円以下の事業者が資本金1千万円以下の事業者(個人を含む)に製造や修理を委託する場合も同様です。
②情報成果物作成委託・役務提供委託を行うケース(上記①の情報成果物作成委託・役務提供委託以外)
- 親事業者(資本金5千万円超)→下請事業者(資本金5千万円以下・個人を含む)
- 親事業者(資本金1千万円超5千万円以下)→下請事業者(資本金1千万円以下・個人を含む)
資本金5千万円超の事業者が、資本金5千万円以下の事業者(個人事業主を含む)に対し、情報成果物作成・役務提供を委託した場合には、資本金5千万円超の事業者は親事業者となり、資本金5千万円以下の事業者が下請事業者となります。
また、資本金1千万円超5千万円以下の事業者が資本金1千万円以下の事業者(個人事業主を含む)に対し、情報成果物作成・役務提供を委託した場合も同様です。
親事業者の義務
また、下請取引の公正化および下請事業者の利益を保護するために、親事業者には次の4種類の義務が課されています。
書面の交付義務
業務を発注するときには直ちに親事業者や下請事業者の名称や製造・修理などを委託した日、下請け事業者の給付などについて具体的記載事項がすべて記載されている3条書面を交付することが必要とされています。
支払期日を定める義務
親事業者が下請事業者の給付内容について検査するかは関係なく、下請代金の支払期日を物品などを受領した日、または下請事業者が役務の提供をした日から起算して60日以内でできる限り短期間で定めることが必要です。
書類の作成・保存義務
親事業者は下請事業者に対して製造委託や修理委託などを行った場合、給付内容や下請代金の額などを記載した5条書類を作成し、2年間保存することが必要です。
遅延利息の支払義務
親事業者が下請代金を支払期日までに支払わなかった場合、下請事業者に対し物品などを受領した日、または下請事業者が役務の提供をした日から起算して60日を経過した日から支払する日までの期間分の日数に応じ、未払金額に対して年率14.6%の遅延利息を支払わなければなりません。
親事業者の禁止行為
さらに親事業者には、次の11項目の禁止事項が課せられているので、仮に下請事業者から了解を得ていたとしたり、違法性の意識がなかったとしても、禁止事項を守らなければ下請法に違反することになってしまいます。
- 受領拒否 注文した物品などの受領を拒む行為
- 下請代金の支払遅延 物品などの受領後に下請代金を60日以内の定められた支払期日までに支払わない行為
- 下請代金の減額 事前に定めておいた下請代金を減額する行為
- 返品 受け取った物品を返品する行為
- 買いたたき 類似品などの価格や市価と比較して著しく低い下請代金を不当に定める行為
- 購入・利用強制 親事業者が指定する物や役務を強制的に購入させたり利用させる行為
- 報復措置 親事業者の不公正な行為を公正取引委員会や中小企業庁に知らせた下請事業者に対し、取引数量を削減したり取引を停止するなど不利益な取り扱いをする行為
- 有償支給原材料等の対価の早期決済 有償で支給した原材料などの対価を、原材料などを用いた給付に係る下請代金の支払期日よりも早く相殺したり支払わせる行為
- 割引困難な手形の交付 金融機関で割引を受けることが難しいと認められる手形を交付する行為
- 不当な経済上の利益の提供要請 下請事業者から金銭や労務を提供させる行為
- 不当な給付内容の変更及び不当なやり直し 費用を負担せず注文内容を変更したり一旦受領した後でやり直しをさせる行為
親事業者の売掛債権はファクタリングで利用できる?
親事業者にはいろいろな規制が設けられていますので、売掛金が発生したとしてもその期間は最大でも60日であることが必要です。
しかしその60日という期間の間にも、諸経費や仕入れ代金、人件費など様々な支払いに充てる資金が必要になるため、もし期日を早めることができるのなら…とファクタリングの利用を検討することもあるでしょう。
ファクタリングで買い取ってもらう売掛金が親事業者のものである場合、ファクタリングに利用しても問題ないか気になるところかもしれません。
ただ、政府からの通達を確認すると、一般的に親事業者の売掛債権をファクタリングに利用することは認められています。
公正取引委員会のファクタリングに対する考え
ファクタリングを利用する会社とファクタリング会社で契約を結ぶ2社間ファクタリングによる資金調達ではなく、親事業者も契約に加わる3社間ファクタリングを利用する場合、親事業者に売掛債権を売却するという情報が伝わることでその後の取引に支障をきたすのではないか…と不安になることもあるでしょう。
この件については公正取引委員会による平成11年7月1日事務総長通達第16号「一括決済方式が下請代金の支払手段として用いられる場合の下請代金支払遅延等防止法及び独占禁止法の運用について」という内容で次の内容が記されています。
- ①下請代金の支払日は、下請事業者がファクタリング手法を用いて金融機関から支払いを受けることができる期日をもって支払日とすることが必要
- ②ファクタリングを用いた支払いを拒むことは、下請法第4条第1項第2号の規定に違反する行為に該当することになる
- ③ファクタリングを用いた支払い方法を下請事業者に強制する行為や、下請事業者がファクタリングを選択した場合において、対象となる契約や他の契約に対し、不当に不利な条件を加えることは独占禁止法第19条の規定に違反する行為となる
ファクタリングを行ったことで、その後の取引に不利益が発生することを禁止しており、下請事業者の資金調達手段について親事業者が制限を加えることはできないという内容が記されています。
他にも公正取引委員会は、決済期間を再設定したり担保追徴を禁止すること、償還請求権の放棄などについても問題視しているようです。
まさに下請事業者を守る仕組みができてきたといえますので、有効な資金調達に繋がってきたといえるでしょう。
ファクタリングの利用は経済産業省も推奨している?
経済産業省中小企業庁では、中小企業などが不動産を担保として融資を受けるといった資金調達に依存することのないよう、売掛債権を担保とする融資保証制度を創設しています。
中小企業は売掛金を多く保有しているので、その売掛債権がもっと資金調達に有効活用されるべきであると推奨しているのです。売掛債権を活用する手法の1つであるファクタリングも同様といえるでしょう。
さらに、売掛債権を資金調達に利用することで、売掛先から資金繰りが厳しいのかと勘繰りを入れられることになり、風評被害などで取引に支障をきたさないよう、売掛債権の利用促進は国の施策であることも公言しています。
また、売掛債権の譲渡を禁止する特約が取引契約に付帯されていると、いざ売掛債権を資金調達に活用したくてもできなくなってしまいます。
そのため、中小企業との物やサービスでの取引を行うにあたり、債権譲渡禁止特約を解除することへの協力も呼び掛けているようです。
債権譲渡禁止特約は法改正により無効に
120年ぶりに民法が改正され、いよいよ2020年4月1日から施行されることとなりました。この民法改正により、債権の譲渡が禁止・制限されていたとしても債権の譲渡は成立することとなり、債権譲渡禁止特約は無効になるとされています。
ただ、新たな民法が施行されるまでに、債権譲渡禁止特約の付帯された売掛債権をファクタリング会社に持ち込んでも買い取ってもらえませんので、その点は注意するようにしてください。
3社間ではなく2社間ファクタリングを利用する場合の注意
なお、親事業者にはファクタリングを利用することを知られたくないと、3社間ファクタリングではなく2社間ファクタリングで契約することを検討することもあるでしょう。
ただし、2社間ファクタリングでは債権譲渡登記を行うことを必須要件としているファクタリング会社も少なくない点に注意してください。
債権譲渡登記は、売掛債権の権利は誰にあるのかを登記により明確にし、二重・三重に別のファクタリング会社に買い取った売掛債権が売却されることを防ぐために行われます。
別のファクタリング会社に対し、すでにファクタリングで利用済の売掛債権を持ち込んでも、譲渡された事実が登記で確認されることになるので買い取りは拒否されることになります。
万一、登記情報を確認せず二重譲渡が成立してしまったとしても、登記で権利を公示しているファクタリング会社が債権を回収する権利を獲得します。
売掛債権という目に見えない資産は誰のものか証明するために行われる登記ですが、この登記情報は一般の方なら誰でも確認が可能です。親事業者に知られたくないから…という理由で2社間ファクタリングを行ったとしても、債権譲渡登記が行われてしまうことでその事実を知られてしまう可能性はゼロではなくなります。
ファクタリング会社の中には、債権譲渡登記を行わず、留保という形で対応してくれる場合もありますので、ファクタリングを利用する上で重要なのは優良な業者選びであるといえるでしょう。
まとめ
ファクタリングで資金調達をすることは、借金など負債を増やすことなく資金を得ることであり、けっして経営状態が悪化しているから売掛債権を使うとは限りません。
負債が増えれば資金繰りが悪化してしまうことを恐れ、将来受け取る予定の売掛金を前倒しで受け取る形での資金調達のほうがよいと判断し、利用する中小企業も多くいます。
また、時期的な変動が大きい業種や、大型の受注が入ったときなどに、手元に十分な資金がなければ銀行融資などで資金調達を検討することになるでしょう。ただ、銀行融資は実際に資金を手にするまで時間がかかるので、場合によってはせっかくのビジネスチャンスを逃すことになってしまうのです。
このような場合において、社会的に信用力が高く、金額も大きい親事業者の売掛債権があれば、有効な資金調達に結びつけることが可能になります。
親事業者も、下請事業者がファクタリングを利用したことについて何かしらの苦言を呈したり、取引を制限するといったことを行うことは、他の下請事業者からの信頼もなくすことになると理解しておくべきです。
下請事業者がファクタリングで親事業者の売掛債権を売却したとしても、親事業者の経営状況に影響を及ぼすことは何もないのです。
むしろ親事業者としての信用力の高さや懐の広さを示すことができ、社会的信用力を高めるよいきっかけになるとも考えられます。
国も売掛債権を有効活用した資金調達を推奨している事実があることを理解し、もし下請事業者が売掛債権をファクタリングに利用したいと相談があった場合には、快く受け入れる姿勢を示すことが大切であるといえます。
下請事業者も、政府がバックアップしている取引であることを理解し、安心してファクタリングでの資金調達を検討するとよいでしょう。