債務不履行とは、故意、または過失で債務を履行しないことを指していますが、契約に違反して金銭の支払いを怠ったときには、強制履行や契約解除、損害賠償請求といった対応が可能となります。
ただ、この債務不履行についても、120年ぶりに改正される民法により、その扱いが変わってくることが予定されていますので、現行法と改正民法での債務不履行の取り扱いについてご説明していきます。
目次
債務不履行責任とは
債務を履行しないことは、法律で定めのある義務を守っていないこととなり、法的な責任を発生させますが、この法的責任が債務不履行責任です。
債務不履行には、履行不能、履行遅滞、不完全履行という3つの種類がありますので、それぞれどのような状況を指すのか確認しておきましょう。
履行不能
履行できない状態になることを指しており、たとえば物を引き渡さなければならないのに物そのものが滅失してしまった場合などが該当します。
履行遅滞
債務を履行せず期日を過ぎた状態のことで、支払期限を過ぎているのに支払いがされなかったという場合を指します。
不完全履行
完成品でない物を引き渡すなど、履行が完全でない状態を指しています。
どの債務不履行に該当する契約かを判断すること
債務不履行責任が発生すると、不完全履行である場合は完全な履行を請求する権利を持ちますし、契約に基づいた債務が履行されない履行遅延であれば契約解除や損害賠償を請求することが可能です。
ただし債務不履行が履行不能によるものである場合には、履行することが不可能な状況にあるため、履行を請求する権利は認められなくなります。
借りたお金を返さなかった場合は?
たとえば融資を受けて返済しない状態とは、金銭消費貸借契約に基づく返還債務の義務をはたしていないことになります。そのため、履行遅滞による債務不履行責任に該当することとなるでしょう。
履行したくてもできない履行不能にはあてはまらないのか?と思うかもしれませんが、お金そのものが世の中に流通しなくなることはありませんので、履行が不可能な状態になるとは考えにくいと判断されます。
手元にお金がなく支払いができないのは、不可能だからではなく単に遅れているとみなされるわけです。
また、仮に100万円の借金のうち、半分しか支払いができなくても履行が不完全と考えることはありません。残った半分の借金は、後日別で支払うことはできると考えられるからです。そのため、不完全履行による債務不履行にも該当せず、単に支払いが遅れている履行遅延として扱われます。
履行遅滞責任に基づいた損害賠償請求は、遅延損害金という形で請求されることになります。
債務不履行による契約解除の扱い
債務不履行の場合、契約当事者の一方の意思表示により、その契約が最初からなかったことにできる契約の解除を行う権利を権利者が持つことになります。
この解除権は、法定解除権と約定解除権がありますが、法定解除権は法律による契約を解除する権利のことで、民法の規定に従った上での解除が可能です。
もう一方の約定解除権は、当事者同士で合意のもと、契約中に解除権を定めておくことにより解除を可能とするものです。
現行法による解除の捉え方
これまでの民法では、債権者が契約を解除できるケースとして、債務不履行があり、その債務不履行は債務者の故意・過失、または同視される落ち度がある場合とされていました。
そのため、契約関係を解消する効果だけでなく、相手の落ち度を咎める意味も含まれていると考えられます。
さらに債務不履行に基づく損害賠償請求と共通することから、解除と損害賠償請求を1つのくくりで把握される傾向にあります。
改正民法による解除の考え
改正される民法では、解除の解釈を契約の拘束力から当事者を解放する手段として捉えることとなりました。
そのため、債務不履行に基づいた損害賠償請求とは別の制度と位置付けることが明確化されることとなり、解除とは契約関係を解消し契約の拘束力から解放するための制度に尽きるとされたわけです。
改正民法による契約解除を可能とするケース
改正民法では、履行されない債務がある場合、債権者が契約を解除可能とする場合とそうでない場合を次のように分類しています。
解除することができないケース
- ・債務不履行が軽微な場合
- ・債務不履行が債権者の落ち度によるものの場合
- ・解除権者が故意や過失により契約の目的物を著しく損傷、または返還できない状態にした場合など
解除が可能になるケース
上記以外の債務不履行に該当する場合
解除が認められる目的を理解すること
債務不履行が軽微な理由である場合は解除することはできないということです。
法律で債務不履行による契約解除を認められる理由は、そもそも債務の履行がないことで目的を達することができない事態を救済するためです。
目的を達成するために必須的でない附随的義務の履行を怠っただけと判断される場合には、特段の事情のない限り、契約を解除することはできないと判断されます。
その債務不履行が軽微なものであるかは、契約や取引上の社会通念に照らした上での判となるでしょう。
なお、債権者が債務不履行となる状態をつくってしまった場合にも、契約を解除することはできないとされます。
催告しなくても解除が可能となる無催告解除とは
契約を解除できる場合だとしても、債務不履行の内容次第で解除方法は異なります。
原則として用いられるのは催告解除で、定めた期間に履行を催告したけれど、履行されない場合に解除することを可能とするものです。
仮に定める期間が極めて短いケースであっても、期間を過ぎれば解除の効力は発生します。
ただ、次のような一定の場合においては、定めた期間に催告を行わなかったとしても契約解除を可能とする無催告解除が認められます。
改正民法542条第1項(催告によらない解除)
- ・債務の全部の履行が不能であるとき
- ・債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき
- ・債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき
- ・契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行しなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき
- ・前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき
改正民法542条第2項(無催告で契約の一部解除ができる場合)
- ・債務の一部の履行が不能であるとき
- ・債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき
まとめ
債権法については明治時代に民法が制定されてから一度も大きな改正は行われていませんでした。今回、120年ぶりの民法改正となり、いよいよ令和2年4月1日から施行されます。
ぱっとみれば契約解除に関してたくさんの改正が行われたように感じる条項となっていますが、現行法での実務と何か大きな変更があるものでもありません。
ただし、契約解除と債務不履行による損害賠償請求などを1つのセットとして捉えていた場合には、一旦リセットして考えることが必要となります。
もし債務が履行されない債権を抱えている場合において、相手にその催促を行う場合には改正後の民法の扱いも理解しておく必要があるといえるでしょう。
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