企業経営において、利益ばかり注視し続けると「黒字倒産」や「勘定合って銭足らず」といった状況に陥ることになってしまいます。
このとき関係するのが、後から代金を受け取ることのできる権利を示す売掛金です。
そこで、最悪の事態に陥らないためにも利益だけでなく売掛金を管理する重要性とその方法についてご説明します。
目次
売掛金とは売掛債権という資産
売掛金は相手に対して代金を請求する権利であるため売掛債権ともいいますが、いつかはお金に代わる債権なので発生すれば資産に計上します。
次の計算式を前提として、当期売上高について経営者は意思決定をして行動することが求められます。
当期売上高=当期中に入金された売上代金+期末売掛金-期首売掛金
当期の売上高を算出するのは、当期中に入金された売上代金、そして商品の納品やサービスの提供は完了しているけれどまだ入金されていない期末売掛金も売上に含めます。
ただ、ここから前期に売上として計上した期首売掛金は差し引きます。
取引先に販売する商品の数量や価格に変動がなく、期首と期末の売掛金もあまり変わらないという場合は特に問題ないでしょう。
しかし販売量が多くなっているときや、売掛金の回収期間が長期に渡り時間がかかっているときは売掛金の発生が問題となります。
売掛金が増えて未回収のままでは、いくら利益が増えていても仕入代金や人件費、固定費やその他の諸経費を手元のお金で賄うことができなくなるからです。
商品販売・サービス提供を完了していることによって当期中に得ることができる資金は、
当期中の売上代金の入金=当期売上高-期末売掛金+期首売掛金
という計算式で算出できます。
ここで算出した金額で、仕入れ代金や人件費など様々な支払いができなくなれば、資金ショートし会社は倒産してしまいます。利益が出ている状態で倒産すれば、黒字倒産という最悪の結果を招くことになるでしょう。
利益は出ていても倒産する?
手元に資金はなくても、決算書上、利益はしっかり出ているという場合もあるでしょう。
これほど利益を生み、儲けているはずなのになぜ…と多くの経営者が疑問を感じてしまうところですが、では損益計算書の利益はいったいどこに消えてしまったのでしょうか。
その答えを知るには、貸借対照表上の前期末と当期末の残高を比ベる必要があります。
たとえば当期の利益として計上された金額と、貸借対照表の繰越利益として表示された金額が同じであるのに、現金は増えていないとします。
ということは、利益が増えた分の資金が他に充てられたと考えられますが、いったい何に充てられたのか…考えられるのは次のとおりです。
売掛金残高が増えた
前期より売掛金残高が増えている場合、利益(売上)の一部が回収されず多く残っていることを示します。もし未回収のまま現金化されなければ、滞留債権となり資金を圧迫することになるでしょう。
売上は先に計上されるので、その分利益も増えます。しかし売上がいくら上がったとしても、その代金が回収できていなければ手元の資金が不足する可能性が高まります。
在庫が増えた
前期より在庫残高が増えている場合、在庫を購入する際に資金が使われたことになり、現金が在庫に形を変えていることになります。
棚卸資産である在庫は、販売し売上代金を回収しなければ現金化されませんので、在庫が増えていれば手元のお金を減らすことになってしまうと認識しておきましょう。
利益が出ているからと回収がルーズになるのは危険!
売掛金は将来、お金を受け取ることができる権利のため、資産として計上されます。
しかし取引先が代金を支払ってくれなければ、権利として残ったままの状態となり、回収不能な不良債権になってしまう可能性もあります。
安定した健全な経営には売掛金を適切に回収することが欠かせませんので、利益だけにとらわれず売掛金管理を徹底して行いましょう。
特に事業の規模が大きくなってくると、掛取引が増え売掛金も増加してしまう傾向にあります。
いつ入金されるのか見直し、あまりに長期に渡るサイトであれば取引先と交渉してみることも必要なるでしょう。
馴れ合いの取引は利益が上がってもリスクも高い
長い付き合いで信頼しているから…と、お金があるときに支払ってもらうような馴れ合いのルールはやめるべきです。
売上を増やし利益を上げるには、多少ルーズな要件でも取引先の希望をきくべきでは…?と考える経営者もいるでしょうが、いくら売上を増やすことはできても手元のお金が増えなければ意味がありません。
どんぶり勘定や馴れ合いのルールなどは、先に述べた黒字倒産や勘定合って銭足らずという状況を招きやすくなると留意しておいてください。
利益にとらわれすぎないために徹底したい管理
売掛金を適切に管理するため、実際に実務ではどのようなことに注意しておくべきか確認しておきましょう。
まずは売掛金元帳を作成し、その上で回転期間・回転率などで売掛金回収が適切に行われているか確認します。
売掛金元帳とは?
取引先ごとの掛け取引による売掛金の発生・回収を確認できる状況にしておくことが必要です。
そのために作成したいのが売掛金元帳で、取引先ごとの売掛金管理に使われる補助簿であることから、得意先元帳と呼ばれることもあります。
売上が計上される(売掛金が発生する)ごとに記入し、入金があった(売掛金が回収できた)ときにもそのデータを記していきます。
回転期間も確認が必要
売掛金の回転期間とは、商品やサービスを販売・提供した後で、実際にその代金を回収するまでにかかる期間をあらわします。
回転期間を算出するときには、
回転期間(日)=(売掛金+受取手形)÷(売上÷365)
回転期間(月)=(売掛金+受取手形)÷(売上÷12)
という計算式を使います。
売掛金の回転期間は短ければ短いほど回収がスムーズであることを示すため、健全経営ができているかの指標として用いられています。
売掛金の回転率とは
売掛金の回転率は、発生した売掛金が効率的に回収できているか知る上での指標となります。
売掛金の回転率=売上÷売掛債権による売上
という計算式で算出できますが、数値が低いほうが回収まで時間がかかっていることを示すため注意が必要です。
売掛金が発生したときと回収したときの仕訳方法
商品やサービスを販売・提供し、売掛金が発生したときは経理処理(会計処理)が必要です。仕訳作業を行うことになりますが、売掛金は後で代金を受け取る権利のため、貸借対照表の資産に分類し計上します。
売上計上したときの仕訳
商品を掛け取引により販売したときは、
借方 売掛金 貸方 売上
という仕訳になります。
売掛金を回収したときの仕訳
後日、発生した売掛金を現金で回収したときには、
借方 現金 貸方 売掛金
という仕訳になります。
未回収のまま放置すると時効で消滅する?
時効とは、長く続いた事実状態を尊重して、たとえ正当な状態でなくても正当な法律状態と認めることです。
この時効は売掛金でも存在し、成立すれば売上代金を請求する権利を失います。
従来までの時効は売掛金の種類によりその年数が異なっていましたが、現在は一律5年で統一されています。
ただし取引先から残高確認書や債務確認書を発行してもらい債務を認めてもらうことや、代金の一部を支払ってもらうことで時効を中断させることもできます。
時効が中断されれば、時効の計算はまた振り出しに戻るので、その時点からまた5年経過しなければならないということになります。
回収不能状態に陥れば利益が出ていても倒産!
いくら利益が出ていても、売掛金の回収ができないままでは、債権として資産は増えたままでも手元のお金は増えません。
取引先が経営状態に不安があり、とても売掛金の支払いができる状況になく、倒産してしまうと最悪の場合には自社まで連鎖倒産してしまう可能性もあります。
そうなる前に、前もって取引先の信用調査を実施しておくことが必要です。
信用調査により不安材料が判明した場合には、事前に掛け取引から現金決済に変更することや、取引量の見直しなども必要となるでしょう。
いくら利益が出ていても未回収分があるといろいろ不利になる?
売掛金の回収が長期化すると、資金繰りを圧迫することだけでなく、税務署や銀行などにもチェックされることになります。
いくら利益が出ていても、計上されている売掛金に回収できない分が含まれていたら、銀行は融資審査でよい顔をしないでしょう。
さらに税務署に提出する法人税申告書には「勘定科目内訳明細書」を添付しますが、その中に含まれる「売掛金の内訳書」で売掛先の明細を確認されます。
様々な場面で未回収分の売掛金は不利になるため、回収不能になる前に早めの対応が必要です。
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