商取引後に経理担当者が行う仕訳・会計処理において、売掛金や買掛金という勘定科目を用いることは多々あります。しかしこれらの勘定科目は、そもそも何を意味しているのでしょう。弥生会計など会計ソフトでも当初から登録されていますが、意味を理解せず使用することは避けたいものです。
また、企業経営では売上減少や売上を向上させることは重視しがちですが、売掛金や買掛金が仕訳処理により増えても後回しにしてしまう傾向が見られます。
注意したいのは、売掛金を回収しない状態のままで放置していても意味がなく、そのままでは資金繰りを悪化させる要因となることです。
そこで、会計処理の仕訳で出てくる売掛金や買掛金とは何を意味しているのか、企業経営における仕訳処理や発生において注意しておくべきことをご説明します。
目次
仕訳処理で出てくる売掛金の意味とは?
簿記の知識がないと、決算期には期首や期末に売掛金という勘定科目があるものの、どのように処理してよいかわからないこともあるようです。
売掛金とは、商品やサービスを販売した代金のうち未回収分を請求する権利であり、取引相手にとっては買掛金や未払金として処理されたままの支払いです。
たとえば飲食店の場合、お酒を提供するお店で顧客が代金をツケにしてほしいとお願いすることがありますが、これは次回来店したときなどにまとめて代金を支払うことを意味します。
このツケにより回収できなかった代金は、仕訳・会計処理においては売掛金で計上することになります。
ツケは顧客との信頼関係があるからこそ可能となるため、売掛金が発生する取引は信用取引ともいわれており、掛け売りが行われたことを意味しています。
回収可能となる請求分が増えるのはメリット?
売掛金はいずれ現金に代わる予定とされるため、増えても問題ないと考えてしまう経営者もいるようです。
しかし売上に対する代金を後払いで後日受け取るということは、もし支払われなかった場合には損失の発生を意味していると認識しておくべきです。
取引先が売掛金を事前に決めた期日に支払わなかったことで、収益に影響することとなり、最悪自社が倒産に追い込まれることもあるのです。
企業は赤字経営が続いても倒産しませんが、手元の資金が枯渇すれば倒産してしまいますので、売掛金は遅れることなくできる限り早めに回収することを心掛けるべきといえます。
企業間で掛け取引が行われる意味とは
日本の企業間における商取引は掛けによる取引が一般的となっていますが、現金でやりとりすればすぐにお金を受け取ることができるのに、なぜわざわざ売掛金を発生させる形を取っているのか疑問を感じることでしょう。
その理由は、企業間における商取引で特定の取引先と売買を頻繁に行う場合、その都度現金でやり取りしてしまうと事務手続きが煩雑化してしまいミスも増えるからです。
掛けによる取引が用いられるのは、一定期間の取引をまとめて請求し、後日決済してもらったほうが効率的であるからといえます。
そして企業間で信頼関係がなければなりたたない取引のため、売掛金や買掛金が発生していることは、信頼関係を築けている企業取引が存在することを意味しているともいえるでしょう。
仕訳処理に出てくる買掛金とはどのような意味?
売掛金は自社が商品・サービスを販売・提供する側のときに発生する勘定科目ですが、それに対する勘定科目に買掛金があります。
買掛金は自社が購入する側の立場のときに発生する勘定科目で、たとえば商品や材料を仕入れたものの代金はまだ支払っていない状態を意味します。
売掛金は代金を回収する権利でしたが、買掛金は代金を後で支払わなければならないという意味なので、売掛金は資産であるのに対し買掛金は負債に計上されます。
資金繰り改善に必要なこと
売掛金は代金を回収できる権利、買掛金は代金を支払わなければならない義務を意味します。しかし売掛金を回収するまでの間に買掛金の支払いが発生することがほとんどであり、売掛金が支払われるまでの期日が長めに設定されていると資金繰りは悪化しやすくなります。
そのため、売掛金はできるだけ早く回収すること、買掛金はなるべく遅く支払うことが資金繰り改善には必要です。
仕訳処理に出てくる未収金(未収入金)の意味と売掛金との違い
売掛金だけでなく、未収金(未収入金)もまだ代金を受け取っていないことを意味する勘定科目として仕訳・会計処理において計上されます。
ただ、売掛金は本業である営業取引によって発生した未回収の代金を意味するのに対し、未収金(未収入金)は営業取引以外で発生した未回収分です。
たとえば不要な備品や事業用車両を売却したもののまだその代金が入金されていない場合などは、仕訳・会計処理では未収金(未収入金)で計上しましょう。
売掛金が発生したときと回収したとき仕訳方法
商品・サービスを販売・提供して売掛金が発生したとき、会計上、どのような仕訳処理で伝票を作成すればよいのか知っておきましょう。
発生した売掛金を確実に回収するためにも、仕訳・会計処理における計上漏れのないよう処理することが大切です。
なお売掛金は後に代金を受け取る権利であることを意味する勘定科目のため、貸借対照表の資産に分類されています。
売上が発生したときの仕訳処理
商品・サービスを販売・提供したときには売上となりますが、掛け取引においてはその代金はまだ回収できていませんので次の仕訳処理を行います。
仕訳・会計処理の際に用いる振替伝票の摘要欄には、取引相手の名称や販売した商品名・数などを記載しておくようにしましょう。
借方 売掛金 貸方 売上
後日、売掛金が期日に取引先から普通預金口座に入金されたときには、次の仕訳処理で売掛金を消します。
借方 普通預金 貸方 売掛金
消費税の仕訳処理
売掛金の仕訳処理を行うときには、消費税の取り扱いにも注意するようにしましょう。税込みなのか、それとも税抜きなのかによって仕訳処理は異なります。
課税事業者であれば税込み経理方式と税抜き経理方式の2種類、免税事業者なら税込み経理方式で処理します。
税込み経理方式の場合、商品代金1,000円・消費税100円の仕訳処理は、
借方 売掛金 1,100円 貸方 売上1,100円
となります。
税抜き経理方式であれば、
借方 売掛金1,100円 貸方 売上1,000円
仮受消費税等100円
という仕訳処理を行いましょう。
回収を適切に行わなければ時効で消滅する可能性も!
売掛金は代金を後で受け取ることができる売掛債権と呼ばれる権利を意味します。しかし債権には消滅時効があるため、一定期間その権利を行使しなければ時効が成立してしまい、権利は消滅してしまいます。
2020年3月31日までに発生した債権の時効は原則10年で、商取引による債権は商事債権とよばれ5年に短縮されていました。さらに債権の種類により、5年から6か月と細かな消滅時効期間が適用されるなど複雑だったため、返金してもら上うで時効までの期間を債権の種類ごとに把握しておかなければならなかったのです。
2020年4月からは民法改正で商事債権と短期消滅時効は廃止に
120年ぶりに改正となった民法がいよいよ2020年4月1日から施行されましたが、それにより商法の商事債権に対する5年という消滅時効と、職業別の短期消滅時効は廃止されています。
新しい民法からの時効は、
- 債権者(お金を請求できる権利を持つ者)が権利を行使できる(請求できる)と知ってから5年
- もしくは債権者が権利を行使できるときから10年
に統一されています。
新たな民法は2020年4月1日に施行なので、それ以前に発生した債権は現行ルールが適用されます。現行ルールが適用となれば、商事債権と短期消滅時効により時効が短縮されることもあると認識しておきましょう。
売掛金が発生している取引先の与信管理が重要
時効は中断させることもできますが、そもそも未回収とならないための取引先に対する与信管理の徹底が必要です。
与信とは相手に信用を与えることを意味しますが、取引先に対して掛け売りで販売してよいのか、どのくらいの売掛金までなら許容できるか見極めが重要です。
取引における限度額を設定するためにも、売掛先ごとの財務や経営状況などの情報は常に入手し、取引金額や取引量で後々問題が発生しないか常に確認を続けましょう。
仮に取引先の信用力が低下している場合には、売掛金が貸し倒れとならないためにも取引内容の見直しが必要です。
もし回収不能状態に陥った場合は
取引先が経営難で売掛金を支払ってもらえない場合でも、引き続き請求を続け催促するようにしましょう。
支払いができないといっても、倒産していないのなら手元に資金が残っていることを意味します。支払わなければならない代金が複数あった場合、何度もしつこく催促してくる取引相手の請求分から支払いを行うと考えらえます。
特に売掛金の金額を大きいと、支払ってもらえないことにより自社の資金繰りに悪影響を及ぼし、最悪倒産をしてしまう恐れもありますので早めに支払ってもらうよう請求しましょう。
取引先との間で買掛金があるのなら相殺することで回収できますし、すでに納品している商品を返品してもらうことで調整も可能です。
それでも支払ってもらえない場合には、訴訟など法的な手続きを検討することも必要となります。
ファクタリングで先に現金化すれば安心
ファクタリングとは、手数料を支払って売掛金をファクタリング専門業者に売却(譲渡)し、取引先が支払う期日よりも前倒しで現金化させる方法です。
お金を借りる借入金を増やす方法ではないため金利や利息という概念がなく、審査も柔軟で手元に現金化された代金が入るまでの時間も非常にスピーディです。
そのため急にお金が必要になったときや支払費用に充てるお金が不足したときなど、資金を調達する方法として用いられることが多いですが、売掛金の未回収リスクを回避させるためにも活用できます。
未回収となるリスクをファクタリング専門業者に移転させることができるので、貸し倒れを防ぐ方法として利用できます。
具体的な売掛金の管理方法
売掛金の意味や仕訳処理の方法はわかったとしても、実際にどのように売掛金を管理すればよいのだろうと疑問を感じることもあるでしょう。
この場合、売掛帳や得意先元帳、売掛金元帳とよばれる帳簿を使って管理を行います。
商品・サービスを販売・提供し、売掛金が発生するたび取引先ごとの取引内容や金額を記帳していき、入金されれば同じく発生した売掛金を消し込んでいきます。
売掛金の回転期間と回転率の確認も必要
売掛金の回転期間とは商品・サービスを販売・提供した後で、実際に代金を回収するまでにかかる期間を意味します。
売掛金の回転期間は、
(売掛金+受取手形)÷(売上÷365)=回転期間(日)
(売掛金+受取手形)÷(売上÷12)=回転期間(月)
という計算式で算出可能です。
売掛金の回転期間は短いほど回収がスムーズにできており、健全な経営であることを意味します。
売掛金の回転率とは、効率的に売掛金が回収できているかを意味します。
売掛金の回転率は、
売上÷売掛債権による売上=回転率
という計算式で算出できます。
売掛金の回転率が低いと、代金回収に時間がかかっていることを意味しますので、資金繰りを悪化させてしまう可能性があると考えておくべきです。
まとめ
売掛金はモノやサービスを販売・提供した後で代金を受け取ることができる権利であり、買掛金は購入した商品や材料の仕入代金などを後に支払わなければならないことを意味しています。
売掛金はできるだけ早く回収し、仕入れ代金や経費などで発生した買掛金の支払いはできるだけ遅くしたほうが資金繰りは改善しやすくなります。
商品販売やサービス提供が増えて売上が向上すれば、帳簿上は利益が発生し黒字経営となるでしょう。しかし売掛金は適切に回収が行われ、手元に現金として受け取ることができなければ本来の利益とはなりません。
企業は手元の資金が枯渇すればいくら黒字でも倒産します。黒字倒産とは、利益が出ているのにお金がなく支払いできる経営が破綻してしまうことを意味しますので、このような状態にならないためにも適切な売掛金管理を行うようにしましょう。
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