中小企業で余裕資金をたっぷりと保有していることはまれなことであり、資金繰りで頭を悩ませている企業のほうが多いはずです。
しかし、事業を継続する上では売上を上げて利益を増やすことが必要であり、そのためには材料などの仕入れは欠かせません。
ただ、売上が計上され、その代金が入金されるまでは一定期間を要することとなり、帳簿上は売掛金として計上されることになります。
売掛金が入金されるまでの間にも、仕入れ代金や人件費、税金、その他経費など様々な支払いが発生するため、不足が生じないように常にお金の流れを掴んでおくことが必要です。
お金の流れを掴むために、資金繰り表を作成しておき管理していきたいと考えても、どのように作ればよいかわからないということもあるでしょう。
そこで、資金繰り表の作り方や、お金の流れをどのように分析し管理していけばよいのかご説明していきます。
目次
資金繰り表を作成しておくことはなぜ重要か
お金の流れを掴む上で重要となる資金繰り表。もし作らずにどんぶり勘定で資金繰りを行っていた場合どうなるでしょう。
いつどのタイミングでどのくらいの支払いが発生するのか、売上の代金が入金されるのはいつなのか、資金がショートしてしまわないか、もしショートする可能性があるならあとどのくらい資金調達すればよいのかなど、資金繰り表で管理していれば一目瞭然であることがすべて把握できません。
また、銀行融資で資金調達する場合でも、担当者からの資金繰りについて質問があったとき、明確な受け答えができなくなってしまうでしょう。
さらにもっと怖いのは、売上は上々で帳簿上は利益が出ていて黒字なのに、手元の資金が不足していることで資金ショートする黒字倒産のリスクが高まることです。
様々な経営上のデメリットを発生させてしまうことになるため、資金繰り表は事業を営み資金繰りを続ける上で欠かすことができないものといえるでしょう。
そもそも資金繰り表とは?
資金繰り表とは、一定期間におけるお金の収支を表にしたものです。
これまでの業績などを参考に、これからの売上や売掛金の回収、仕入れ、代金の支払い、借り入れによる資金調達、負担する返済など、お金の動きを予測しながら管理していくために使用します。
資金不足を防ぐ上での資金調達の予定表としての役割もあるため、急な資金不足に陥ったり、資金ショートしてしまい黒字倒産することを回避できます。
また、未来のお金の流れを予測すれば、経営において抱えている課題も見えてくるはずです。
資金繰り表で管理するお金の流れの種類
事業を営む上でのお金の流れは、
- ・営業キャッシュフロー(経常収支)
- ・投資キャッシュフロー(経常外収支)
- ・財務キャッシュフロー(財務収支)
という3種類に分けることができます。
それぞれの収支を合計することで、一定期間における過不足金額を把握することができます。
営業キャッシュフローとは
営業活動におけるお金の収支のことで、経常収支のことです。
経常収支の収入に含まれるもの
- ・売上の対価を受け取った金額
- ・売掛金を回収したことで入金された金額
- ・期日通りに振り込まれた手形の金額
- ・期日前に割り引く手形割引により調達した金額
などが該当します。
経常収支の支出
- ・仕入れ代金を支払ったときの金額
- ・買掛金を支払ったときの金額
- ・手形の支払いが決済された金額
- ・従業員に対して行った給与の支払金額
- ・支払った利息や手形割引の割引料などの金額
- ・その他経費を現金で支払った金額
などが該当します。
投資キャッシュフローとは
設備投資や有価証券投資など、投資したことによるお金の収支を示す経常外収支のことです。
経常外収支の収入
- ・固定資産を売却したことにより得た金額
等が該当します。
経常外収支の支出
- ・税金や役員賞与の配当分を支払った金額(役員報酬は賃金給与としての扱い)
- ・固定資産を購入したことで支払った金額
- ・手形で支払った固定資産購入費用が決済されたときの金額
などが該当します。
財務キャッシュフロー
財務活動によるお金の収支であり、財務収支のことです。お金を借りて資金を調達し、その借入金分を返済するなどの流れを指しています。
財務収支の収入
- ・長期借入金や短期借入金など、融資により調達した資金の金額
- ・定期預金を取り崩したことによる金額
- ・増資によって入金された金額
などが該当します。
財務収支の支出
- ・長期借入金や短期借入金などの返済に充てた金額
- ・定期預金に預け入れた金額(定期預金に預け入れた場合、使用できないお金として扱うことになるので支出とします。反対に解約して入金があった場合には、取り崩しとして収入とします。)
等が該当します。
資金繰り表を作成することは難しい?
現金出納帳、預金出納帳、伝票など、記録している帳簿の内容から現預金の収支を抽出して集計していけば、これまでのお金の流れを示す実績資金繰り表の作成が可能です。
実績資金繰り表と比べると、作成が面倒なのが予定資金繰り表といえます。なぜなら将来の資金繰りを予測することは簡単とはいえず、特に売上高がいつ入金されるのかその予定の判断が難しいかもしれません。
予定資金繰り表は3か月から1年くらい先までのものを作成することが多いため、次月あたりまではおおよその予想はできても、数か月以上先の予定までは判断しにくくなります。精度も下がってしまうので、予定資金繰り表を作成しても意味がないと考えてしまうこともあるようです。
しかし、資金繰りが今後、厳しくなることが考えられる場合には対策を早めに検討することができるようになりますし、銀行などとの交渉でも予定資金繰り表は重要な存在となります。
資金繰り表作成の手順
まずは売上高、仕入・外注費などの予測を記載していきます。
予定資金繰り表を作成する上で最も慎重に考えることが必要なのは売上高です。業種や企業などにより、仕入率はある程度決まっているので、仕入分は予測しやすいはずです。
ただ、売上高は予測しにくいことが多いので、過去3期分の実績などを確認するなどで判断していくようにしましょう。
その上で、予定した売上分はいつ入金になるのか、仕入代金はいつ支払うのか、決まっている回収と支払サイトに従い資金繰り表に落とし込むようにしてください。
収支の予想数値を記載
次に、先に述べた3つのキャッシュフローである、経常収支、経常外収支、財務収支を計画可能な範囲の収支で記載していきます。それにより、翌月に繰越となる現預金を把握することができるでしょう。
最終的な翌月繰越となる現預金がマイナスになってしまうことは資金が枯渇すること=ショートしてしまうことを示し、企業なら倒産してしまいます。
もしマイナスをあらわすようなら、売上や支払いの計画を見直すことが必要ですし、どこかで資金調達することが必要になると考えられるでしょう。
資金繰りの計画を調整する
もし翌月に繰越となる現預金がマイナスになる場合には、
- ・収入を増やすことができる内容に変更する
- ・支出を減少させることができる内容に変更する
- ・何らかの方法で不足する資金分、資金調達する
ことが必要です。
なお、資金調達によりマイナスを回避するなら、
- ・銀行から融資を受ける
- ・手形割引やファクタリングを利用する
- ・固定資産などを売却して換金する
- ・定期預金など固定性の預金を取り崩す
- ・増資する
といった方法がありますので検討が必要となります。
予測と実績の差異を分析する
予定される売上の予測以外、予定資金繰り表の作成はそれほど難しいわけではありません。
困難なのが更新作業で、たとえば作成した当月の予定資金繰り表の実績はその次の月に出ます。ここで実績と予測の差異を確認することになりますが、なぜ差異が発生したのか検証して、次月以降の予測される数値を調整することが必要です。
この調整作業がとても重要で、予測を立て、実績を確認し、差異の原因を分析し、再度予測を立てるということを繰り返すことになります。
資金繰り表の精度を高める上で、この一連の流れは欠かすことができないものといえるでしょう。
資金繰り表で確認する項目
資金繰り表は作成すれば完了でなく、定期的に記載した数値を見直していくこと必要ですので、資金繰り表の次の項目を確認していきましょう。
営業収支はプラスであることが必要
本業による収支をあらわすのが営業収支ですので、税金や賞与などの支払いが発生する月はマイナスになったとしても、3か月や1年という単位でみたときにはプラスであることが求められます。
もしプラスでないなら設備投資に費用をかけることも、借入金の返済資金も準備できないということです。
継続して営業収支がマイナスを示す場合、銀行融資などに依存し続けることとなるため、もし融資が打ち切りになれば危機的な状況を迎えることになるでしょう。
そのため営業収支はしっかりプラスを示しているか確認するようにしてください。
月商以上の現預金残高を確保しているか
資金繰りにばかり気を取られることなく、本業に集中するためには月商以上の現預金残高が必要と考えられます。
月末の現預金残高が極端に少ないことが予想される場合、早急の対策が求められることとなるでしょう。
予定していた売掛金の入金が遅れてしまったり、想定していたよりも支出が多かった場合など、プラスを見込んでいた営業収支がマイナスになってしまうこともあるので、そのマイナス分を吸収できる現預金残高が必要と考えておくべきです。
営業収支を上回る借入金返済になっていないか
営業収支はプラスでも、借入金に対する返済額が営業収支を上回る状態で、月の収支はマイナスを示している場合もあります。
このような状況では現預金の残高がマイナスとなるため、返済額を上回る営業収支になるような資金繰りの改善を検討することが必要です。
仮に銀行融資で資金調達しようとしても断わられてしまったときには、返済条件を変更してもらうリスケジュールを相談するなど検討が必要となります。
設備投資が資金繰りを悪化させる原因にならないか
設備投資には多額の資金が必要ですが、投資した金額に見合う売上や利益が出せなければ本末転倒です。銀行融資などで資金調達して設備投資を行う場合は特に、投資後の売上や利益を予測した上で実行することが求められます。
悪化した資金繰りを改善させるために必要なこと
もし作成した資金繰り表から資金が不足することが予想される場合、まずは原因を確認した上で早急な対策が必要です。
資金繰りを改善させる対策として、次のような方法があります。
売掛金回収や仕入れ代金の支払条件を見直す
取引先ごとの売掛金の回収、仕入れ代金の支払における条件を確認します。
長期に渡り、契約当初に決まった条件が継続されていることが多いでしょうが、不利な条件は変更してもらえないか取引先と交渉することも検討が必要です。
もし交渉により信用不安につながってしまうことが不安な場合には、たとえば売掛金の回収はファクタリングを利用することで早期化させることもできます。
取引先の与信管理を徹底する
売掛金の回収が遅れてしまえば、仕入れ代金や人件費、経費などの支払いに充てる資金が不足してしまいます。
信用部分で不安がある取引先と継続して取引を続け、売掛金などの売掛債権を増やせば、手元の現金不足にいつまでも悩まされることになってしまいます。
最終的に取引先が倒産してしまえば、保有している売掛債権は不良債権となってしまい、場合によっては連鎖倒産してしまう可能性もあります。
そのため営業担当者に取引先の状況を確認してもらったり、信用調査会社などを活用するなど、取引先の与信管理を徹底して行うことも必要です。
在庫管理の厳格化
資金繰りを改善させるためには、過剰に在庫が発生していないか確認することも必要です。
在庫の回転期間が長期化していれば、資金繰り悪化だけでなく不良在庫を増やしてしまうことにも繋がります。
在庫管理にかかるコストも考えれば、早めに処分することも必要です。同時に様々な経費の見直しや削減に努めることも怠らず行いましょう。
資金繰り表を作成する上で注意しておきたいこと
予定資金繰り表を作成するとき、忘れてしまいがちなのが賞与です。
従業員に対する賞与は、雇用している数や1人あたりの金額によって異なるものの、多額の資金が流出することが一般的ですので予定される額を組み入れておくことが必要といえます。
また、従業員に対して支払う給与から徴収する源泉所得税は、毎月納付していれば特に忘れることもないでしょう。ただ、企業によっては年2回納付を選択していることもあるので、1月と7月に計上できているか確認しておくようにしてください。
これらに加え、納付期限が決算期末の2か月以内となっている法人税等や消費税も計上しておく必要があります。前期の税額次第で予定納税も必要になるため、納税額が大きい場合は特に組み入れることを忘れないようにしましょう。
月ごとの資金繰り表では不十分なケースも
資金繰りがかなり厳しい状態にあるのなら、月ごとでは不十分なので日ごとの管理が必要になります。
たとえば売上に対する入金が月末に集中しているケースで、従業員の給料は毎月25日であるなら、月末になれば現預金はプラスを示す場合でも、25日から月末までの間はマイナスになる可能性が考えられます。
このような場合、日々の資金繰りを管理するため日繰り表を作成しましょう。
まとめ
事業を営む上で資金繰り表による手元のお金の流れを把握することは欠かせません。いくら決算書上は利益が出ていたとしても、手元の資金が枯渇してしまえば企業は倒産してしまいます。
資金ショートさせないためにも、しっかり資金繰り表を作成してお金の流れを把握しておくようにしましょう。
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