建設業・運送業・繊維産業などは親事業者が製造委託をした場合、下請事業者の給付に対し支払う下請代金を手形で行うことも少なくありません。
一般的な商取引は掛けによる信用取引で、売掛金が発生するものですが、その売掛金の支払いを手形で済まされればさらに入金まで時間がかかります。
売掛金は入金まで1か月や2か月かかるものですが、手形は支払期日までさらに長期化することもあり、その間の資金繰りに苦しくなりがちです。
この場合、売掛金ならファクタリング、受取手形なら手形割引で期日までの期間を早期化できます。
そこで、期日前の手形を早期に現金化させる手形割引を用いる場合、割引料を決める手形割引率はどのように計算されるのかご説明します。
目次
売掛金が対象になるファクタリングにはない手形割引率とは?
手形割引で資金調達を行う場合、発生する手数料がどのくらいになるのかが非常に気になるところかもしれません。
掛けによる取引で計上された売上代金が、取引先との間で決めた期日に口座に入金されるのであれば売掛金が発生することになります。
しかし売上代金を手形で受け取った場合、記載された期日までが長いため早めに現金化させたいと考えてしまうものです。いくら収益が出ていても、手元のお金が不足していては何の意味もありません。
このときに利用するのが手形割引ですが、しっかりとした手形割引業者であれば、初回の見積もり段階で納得できる手形割引率を提示してくれるはずです。
しかしその手形割引率は、そもそもどのように決めているのでしょう。
そもそも手形割引とは、期日にならなければ受け取ることができないお金を先に受け取る代わりに、銀行や手形割引業者に手数料を支払い手形を買取ってもらうことです。
手形割引を利用した割引依頼人は、この手形割引を利用することで期日よりも前にお金を受け取ることができます。
そして銀行や手形割引業者など割引人は、手形の期日よりも先にお金を支払う代わりに手数料を受け取り、その差額を割引依頼人に支払うという流れです。
ここで注意したいのは、手形を買い取ってもらうという形ではあるものの、取引そのものは手形を担保にお金を借りることになるので、利息として手数料が差し引かれることになる点です。
売掛金ではなく手形を使った資金調達の取引とは
売掛金をファクタリング会社に売却し、現金化する資金調達の手法にファクタリングがあります。ファクタリングは売掛金の売買取引なので、融資ではありません。
しかし手形割引は融資と見なされるため、手形を買取る銀行や手形割引業者は、手形を発行した振出人の支払い能力を重視した審査を行います。
支払い能力があると認められれば、手形割引料などが差し引かれ割引依頼人に現金が支払われる形です。
手形割引で利息としての性質を持つ手数料が手形割引料であり、そこに手形交換を行う際に発生する手数料などの取立手数料といった費用を加えたものが手形割引手数料とされて差し引かれます。
手数料の計算方法
売掛金が対象となるファクタリングと異なり、手形割引の手形割引料の計算方法は少々複雑です。手形割引料は一般的な融資における金利のようなものなので、その内容を把握しておきましょう。
- ・手形割引料=手形額面金額×手形割引率(手形割引利率)×支払期日までの日数÷365日
- ・手形割引手数料=手形割引料+取立手数料
- ・手形割引で受け取る金額=手形額面金額-手形割引手数料
なお、手形額面金額とは手形に記載された金額のことで、本来支払い期日に支払われる金額のことを指しています。
そして手形割引率は、手形依頼人が手形割引人に支払う利息である手形割引料を計算するときに用いる割合で年利になるため、手形が決済されるまでの期間が1年未満であれば日割りで計算されることになります。日割り計算の場合において、手形の支払期限と支払い先の休業日が重なった場合には、翌営業日までの日数がプラスされることになります。
手数料の計算例
実際に手形割引を利用した場合、どのくらいの手形割引手数料が発生することになるのかケースに応じて計算してみましょう。
【例①】
手形額面金額:100万円
手形割引率:年利5.0%
支払い期日までの日数:90日
取立手数料:660円
手形額面金額(100万円)×手形割引率(5.0%)×90日÷365日=手形割引料12,328円
手形割引料(12,328円)+取立手数料(660円)=手形割引手数料12,988円
割引依頼人が手形割引で実際に受け取る金額は、手形の額面金額から手形割引手数料分を差し引いて計算しますので、
手形額面金額(100万円)-手形割引手数料(12,988円)=受取金額987,012円
という計算になります。
同様に、次の例も参考にしてみてください。
【例②】
手形額面金額:500万円
手形割引率:年利3.0%
支払い期日までの日数:120日
取立手数料:660円
手形割引料=手形額面金額(500万円)×手形割引率(3.0%)×120日÷365日=49,315円
手形割引手数料=手形割引料(49,315円)+取立手数料(660円)=49,975円
受取金額=手形額面金額(500万円)-手形割引手数料(49,975円)=4,950,025円
銀行や手形割引業者はどのように手形割引率を決める?
手形割引率ですが、どのように決められているのでしょう。
一般的には審査によって決められることになりますが、手形が不渡りになる可能性が大きく左右します。
不渡りになる可能性が高ければ割合も大きくなりますし、不渡りになる可能性が低く決済できる可能性が高い安心できる手形と認められれば、割合も小さくなるという形です。
その点は売掛金を対象としたファクタリングと類似している部分といえるでしょう。
ただ、売掛金を対象とするファクタリングとの大きな違いは、業者が買取った手形の振出人に支払い能力がなく、不渡りになれば割引依頼人がその手形を買い戻さなければならないことです。
それでも割引依頼人に買い戻すほどの資金がなければ、業者は手形の回収ができず、貸倒損失を抱えることになります。そのためそのような貸し倒れリスクを防ぐため、振出人の信用力は審査で重要となり、それによってどのくらいの割合で手形割引率を適用させるのかが左右されるのです。
振出人の信用力は審査によって決まるので、手形割引を利用する上で適用される手形割引率もそれにより変動することから、一律何割という設定はできません。そのため、一定の幅で表示されていることがほとんどです。
売掛金と異なり手形割引は手形振出人の信用力が重要
振出人の信用力が手形割引率を決定づける大きな要因となりますが、主に次の項目を確認されることとなります。
- ・経営数値
- ・これまでの手形取引履歴
- ・企業規模
- ・事業歴
- ・信用情報
- ・信用情報機関などに登録されている情報
銀行などの金融機関や手形割引業者であれば、信用力に応じた格付けがされているはずなので、そのランクに応じて決まることとなるでしょう。
裏書人の信用力も確認
手形割引は裏書譲渡という方法により第三者に手形が譲渡されますが、裏書人とは振出人が手形の支払いを行わない場合に支払い義務を負う人です。
この裏書人の信用力が高い場合、振出人が支払いできない状態に陥ったとしても裏書人から代金を受け取ることができるので、裏書人の信用力も重要になります。
手形の額面金額
手形割引で行う手続きやかかる費用は、手形の額面金額の大小に左右されることなく、どちらも同じくらいのコストや手間がかかります。
そのため、額面金額が小さい手形よりも、大きい手形のほうがコストパフォーマンスはよいと判断されるため、額面金額の大きい手形の方が適用される手形割引率は低くなるといえるでしょう。
手形の支払い期日までの期間
手形支払いまでの期日が長期に渡る場合、その間に振出人や手形依頼人が経営難に陥り、倒産してしまうリスクは高くなります。そのため、期日までの期間は短ければ短いほど手形割引率も低く設定されるといえるでしょう。
ただ、あまりにも支払い期日までの期間が短い場合は、手形割引業者などが受け取る利益も少なくなるため、支払い期日まで数日という場合はかかる手形割引率を高めに設定することもあるようですので注意しましょう。
手形割引業者の運営コスト
手形割引業者なども、事業を続ける上で広告宣伝費や人件費など様々な経費がかかります。それらの諸費用が高ければその分をカバーすることが必要になるので、手形割引率も高く設定されることになるのです。
また、手形割引業者の多くは、銀行へ再割引を行っており、銀行との取引実績が多い手形割引業者のほうが手形割引料も安くなるため、割引依頼人が請求される手形割引手数料も安くなるという流れです。
売掛金同様に手形を使う場合も費用を軽減できる業者選びを
手形割引率の相場は、どの金融機関を利用するのかによってことになりますが、一般的には次の割合が相場となっています。
- ・都市銀行 年利1.5~3.0%
- ・普通銀行 年利2.0~3.5%
- ・信用金庫 年利2.5~4.5%
- ・信用組合 年利3.5~5.5%
- ・手形割引業者 年利3.0~20.0%
手形割引業者よりも銀行などの金融機関を利用したほうが手形割引率も低いので、その分発生する手形割引手数料も抑えることができます。
銀行などの金融機関にも種類があるので、どこを利用するかによって設定される手形割引率や手形割引手数料は変わってくるでしょう。
いずれにしても手形割引で資金調達をする場合には、3社以上から相見積もりを取得した上で、比べてみることをおすすめします。見積もりを請求し、審査をしてもらわなければどのくらい手形割引手数料が発生するのかわからないからです。
銀行や手形割引業者によってサービスが大きく異なるといったことがほとんどないので、発生する手形割引手数料は安ければ安いほどよいと判断してよいでしょう。
売掛金と違う?手形割引の引き受けには上限がある
手形割引は手形を担保に融資を受けることと見なされますので、多くの場合、引き受け可能とする上限金額が決められている点にも注意してください。
手形の支払い期日よりも前に上限金額に達している場合は、それまでに依頼した手形が決済されるまでは手形割引の利用はできません。
そして万一、割引手形が不渡りになれば割引依頼人が手形に記載された金額を手形割引人に対して支払うことになりますので、不動産などの資産を担保とすることが必要になる場合もあります。
準備する必要のあるものは?
手形割引は、銀行と手形割引業者のどちらに依頼するかによって、審査の内容も異なりますし、準備するべきものも変わります。
それぞれどのようなものを準備しなければならないか、事前に把握しておきましょう。
銀行で必要になるもの
銀行に手形割引を依頼した場合、振出人が支払期日に決済する支払い能力があるか、そして万一手形が不渡りとなった場合の割引依頼人の弁済能力を判断します。
そのため、振出人は信用情報機関などのデータや、手形振出銀行からの情報などで調査を行い、割引依頼人は決算書や納税証明、取引状況などを基準に審査を行います。
必要書類として、次のような書類を提出するように求められることが一般的です。
- ・預金口座(普通預金口座や当座預金口座)が確認できるもの
- ・会社に関する書類(登記簿謄本、不動産登記簿の原本など)
- ・代表者に関する書類(運転免許証などの本人確認書類)
- ・印鑑証明書(法人と代表者分)
- ・直近3期分の決算書
- ・会社の納税証明の申告書
- ・代表者の収入が証明できる書類
これらの書類に加え、担保として差し入れる不動産、保証人、保証協会の保証なども要求されることがあります。
書類がそろった状態で銀行取引約定書を取り交わしますが、手形割引を利用する都度、窓口となる銀行の支店長や本部の決済を得た上で行われることになるでしょう。
何度か手形割引を利用し、銀行から信用があると認められた場合には、手続きを簡素化させる割引枠の設定をしてもらえることもあるようです。
この場合、手形割引に上限金額が設けられることとなり、その範囲内なら簡単な手続きによって手形割引の利用が可能となります。
最初は審査が厳しく手続きを行う上でも手間がかかると感じるかもしれませんが、低い手形割引率が適用されるので十分な資金調達に繋がりやすくなるといえるでしょう。
手形割引業者で必要になるもの
手形割引業者は振出人の信用力を判断する審査で、手形割引の利用可否を決めることが多いようです。判断の目安とするのも信用情報機関などのデータのため、利用の可否がわかるまで時間が短い場合も少なくありません。
そのため、手形割引業者で手形割引を利用する場合、別途必要書類などを求められるかは業者によって異なります。
また、業者によっては割引依頼人が直接出向くこともなく、電話やメール、ファックスなどで申し込みを行い、手形を郵送すれば手続きが完了するといったこともあるようです。
手間や時間がかからないことがメリットではありますが、銀行よりも高い手形割引率が適用されるので、十分な資金調達に繋がらなくなる可能性があります。
さらにあまり馴染みのない業者などの場合、不安を感じてしまうといった部分がデメリットといえるでしょう。
手形割引で資金調達したときの仕訳
最後に、手形割引を活用して資金調達したとき、簿記の仕訳伝票を作成するときの処理についてご説明します。
手形を受け取った時には、
借方:受取手形 貸方:売上
という仕訳をたてます。
そして手形を割引いたときには、
借方:当座預金 貸方:受取手形
手形売却損
という仕訳になりますが、手形売却損は差し引かれた割引料分です。
まとめ
手形割引率とは、手形依頼人が手形割引人に支払うことになる利息を計算する上で適用される割合のことであり、この割合が低いほど手形割引で手形を現金化し、受け取ることができる金額も大きくなるといえます。
売掛金を対象とするファクタリングでは手形割引率という概念はありませんが、売掛先の信用力で手数料が決まり、手数料が安ければ十分な資金調達につながります。
手形割引で資金調達するときには、手形割引が振出人や裏書人の信用力・手形の額面金額・支払い期日までの期間・手形割引業者などのコストなどにより決まります。
できるだけ手形割引手数料が安く設定される業者を選ぶようにするためには、複数社から相見積もりを取得して比較・検討することが望ましいといえますし、できることなら銀行に依頼したほうがよいと考えられます。
ただ銀行で手形割引を利用する場合には、審査で振出人と割引依頼人両方の審査を行うこととなります。提出する書類の種類が多く、揃えるまで手間や時間がかかると感じてしまう可能性もあります。
さらに銀行で利用する場合は審査のハードルが高いので、審査で利用できないと断られてしまった場合には手形割引業者に再度依頼が必要です。
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