事業資金の準備を銀行のプロパー融資から用意しようと考えている経営者もいるかもしれません。しかし、銀行のプロパー融資は、信用保証協会の保証なしで銀行が責任を負担する形で貸し付けを行うため、とても高いハードルの審査を通過することが必要となります。
銀行がプロパー融資を実行するかは、その企業の信頼性の高さや、不良債権先ではないかなどで判断します。
不良債権先だと判断されてしまえば、まず銀行から借り入れを行うことはできなくなりますので、銀行から安心できる信頼性の高い企業と判断される基準とは何なのか確認しておきましょう。
目次
不良債権とは
不良債権とは、約束していたとおりの元本や利息の支払いを受けることができなくなるなど、経済価値が低いと判断される貸出債権のことです。
銀行など、債権者である金融機関が保有する貸出金などの債権の中で、通常の回収期間に回収できないもの、回収困難に陥る可能性の高いもの、すでに業績や財務状況に問題が発生していて経営破綻する可能性があるもの、すでに破綻しているといった債務者の債権は、すべて不良債権として扱われます。
通常、銀行など金融機関では貸出債権について、正常先、要注意先(特に注意が必要な場合は要管理先)、破綻懸念先、実質破綻先、破綻先というおおよそ5つに分類し管理を行います。
銀行が貸出先に行う5つの区分
銀行など金融機関は不良債権が発生することを防ぐため、貸出債権を5段階に分けて管理を行います。
銀行が区分する債務者区分は次のとおりです。
- 正常先 業績・財務に問題がないとされる場合
- 要注意先 貸出条件や債務履行状況、業況に問題がある場合を指し、特に注意が必要とする場合は要管理先へと区分される
- 破綻懸念先 経営破綻する状況ではないものの、経営困難な状態であり、破綻する可能性が高い場合
- 実質破綻先 法的・形式的には経営破綻には陥っていないものの、深刻な経営難に陥っている状況であり、再建の見通しがないと判断される場合
- 破綻先 法的・形式的にも経営破綻に陥っている状況である場合
これらの債務者区分のうち、2要注意先から5破綻先までに相当する場合の債権は、不良債権として扱われることとなります。
5つの債務者区分に分類するための格付に注目!
5つの債務者区分に分類するため、銀行は債務者である個人や企業の様々な状況などを把握・確認した上で格付をおこないます。
格付とは、銀行など金融機関が個人や企業に対して行う成績表のようなものであり、独自で準備しているスコアリングシート(得点表)などを用いて決算書に点数を付けていく形です。
銀行の担当者は、融資を希望する個人や企業から直接話をきくことができますが、担当者以外の上役や審査部などは、企業のすべてを把握することができません。そのため、評価された点数により、融資を行うか決定することになります。
そのため、格付がよければ低金利で迅速に、希望通りの融資を受けやすくなるといえるでしょう。
格付を行う3つの段階
銀行など金融機関が行う格付には次の3つの段階があり、それぞれの段階を経た上でどのランクに該当するか決まります。
- 定量評価 決算書の数値に基づいて行う格付評価
- 定性評価 決算書上で数値化できない要素についての評価
- 実態評価 決算書の裏に隠れた返済能力を反映させた上での評価
1.定量評価
資本金や自己資本比率など、財務指数を評価として換算していきます。
決算書の数値が黒字なら、銀行から融資を受けることができると判断する方もいるようですが、黒字があらわすのは収益性の指標です。
銀行などが行う格付では、この収益性はもちろんのこと、安全性や成長性、債務返済能力なども評価の対象となる点に注意しましょう。
それぞれの指標がバランスよく得点されることが必要ですが、金融機関によって配点基準は異なります。
収益性の指標
●売上高経常利益率(%)=経常利益÷当期売上高
売上に対し、どのくらい経常利益があがっているかを示します。
●総資本経常利益率(%)=経常利益÷総資産
投入した資本により、どのくらいの利益が生じたか運用効率を示します。
●収益フロー(当期利益額)
何期連続で黒字が続いているかです。
安全性の指標
●自己資本比率(%)=自己資本÷総資産
企業の体力を示します。
●ギアリング比率(%)=(短期・長期借入金+社債)÷自己資本
自己資本に対する借入金の大きさを示します。
●固定長期適合率(%)=固定資産÷(固定負債+自己資本)
どの程度、固定資産を長期資金でまかなうことができているかを示します。
●流動比率(%)=流動資産÷流動負債
流動資産がどの程度、流動負債をまかなうことができているか、即資金化できているかを示します。
成長性の指標
●経常利益増加率(%)=(当期経常利益-前期経常利益)÷前期経常利益
当期末と前期末の経常利益から、規模の拡大を測定します。
●自己資本額
金額が大きいほど財務面で安全とされます。
●売上高
企業の成長性をあらわす尺度とされます。
返済能力の指標
●債務償還年数(円)=有利子負債÷償却前営業利益
利益などによるキャッシュフローにより、借入金の返済が何年で完済できるかを示します。
●インタレスト・カバレッジ・レシオ(倍)=(営業利益+受取利息・配当金)÷支払利息・割引料
利息の支払能力を測るための指標です。
●キャッシュフロー額=営業利益+当期減価償却実施額(減価償却費)
融資資金が確実に返済されるかを示します。
2.定性評価
決算書上の数値では評価できない、市場の動向や、経営状態、営業基盤、競合状態などの要素に対する評価を行います。
都市銀行であれば定量評価で全面的に判定されることが多いですが、地方銀行なら7割が定量評価で残り3割がこの定性評価、信用金庫などはさらに定性評価の割合が高くなり、定量評価が6割、定性評価4割で判定されると考えられます。
中小企業は都市銀行よりも地方銀行や信用金庫との取引がメインになることが多いため、定性評価も格付を決める上で重要な要因であると理解しておきましょう。
具体的には次の項目について、銀行など金融機関の担当者が主観にてポイント化する方法により判定していきます。
・市場動向(将来性や成長性)
・経営者の能力や経営状態
・競合状態(販売力や技術力、経営計画策定能力、財務管理能力など)
・株主
・従業員のモラル
・過去の返済履歴
3.実態評価
返済潜在力を評価する部分ですので、不渡手形、回収不能である売掛金や貸付金、換金できない不良在庫などは資産から控除していきます。
また、土地や有価証券の含み損も控除対象です。反対に、土地などに含み益がある場合には評価が上がります。
経営者や支援者、関連する企業に資産の余力が認められれば、評価がプラスに働きますが、実態評価が格付に大きく影響することはあまりありません。
格付から5つの債務者区分への分類
企業の格付を行った後は、その評価をもとにして5つの債務者区分へ分類することになります。
先にのべたように分類されるのは、正常先、要注意先(要管理先)、破綻懸念先、実質破綻先、破綻先のいずれかです。
どの区分に分類されるかにより、融資を受けることができるのか決まると理解しておいてください。
仮に要管理先に分類された場合、融資を行う銀行は金利を大きく上回る貸倒引当金を計上しなければならなくなります。それは、銀行にとって、融資を行うこと自体が損に繋がるため、まず借り入れはできないでしょう。
5つの債務者区分の内容
格付後に分類される5つの債務者区分の内容は次のとおりです。
正常先
良好な業況であり、財務内容も特段、問題がないと判断できる場合は正常先と判定されます。
決算書も当期利益が黒字であり、さらに純資産の部に累積損失などマイナス表示がないことが必要です。
ただ、創業したばかりの時や設備投資などを行った年など、一時的な赤字とみなされる場合には、経営者に資産がある場合や余剰資金が十分にあるなど、返済能力に問題がないとされれば正常先と判断されることもあります。
要注意先
財務内容に問題がみられるような業績不調である場合や、延滞などある場合は要注意先と判定されます。
決算書においても、当期利益が赤字である、借り入れの返済が1か月以上延滞している、純資本の部に累積損失であるマイナス表示がある、すでに債務超過の状態という中で、いずれか1つでも満たせば要注意先と判断される可能性が出てきます。
●要管理先
要注意先の中でも、借り入れの返済が3か月以上延滞している場合や、融資条件の緩和が実施されている場合はさらに危険度の高い要管理先と判定される可能性があります。
破綻懸念先
経営破綻の状況ではないものの経営が厳しい状況であり、経営改善計画などの進捗状況も思わしくない状況である場合は破綻懸念先と判定されます。
まだ経営破綻に陥っていないだけで、今後は破綻する可能性が高いと判断されたときに分類されます。
決算書上は、2期連続債務超過で借り入れの返済も3か月以上延滞している、または借り入れの返済が6か月以上延滞しているというどちらかの条件を満たせば破綻懸念先と判定される可能性が出てくるでしょう。
実質破綻先
法的や形式的には経営破綻していないけれど、経営状況が深刻な状態であり、すでに再建の見通しが立たないと判断される場合、実質的に経営破綻しているとみなされます。
破綻先
法的や形式的に経営が破綻している状況で、清算や会社更生、和議、手形交換所の取引停止処分など、倒産している状況と判断できる場合に破綻先とされます。
格付や債務者区分を改善させるためにどうすればよいか
銀行融資に大きく関係する格付ですが、改善させるためにはどの項目の点数が低く判定されているのか確認していくことが必要です。その上で、問題となっている部分の何に原因があるのか分析し、実行できていないことから改善させていくようにしましょう。
収益性を改善させるために
収益性を改善させるには、固定費の見直しや削減が重要です。費用対効果の低い科目の有無を確認し、他の仕入れ先の商品との比較や相見積りを取得することを定期的に行うことを行いましょう。仕入単価など、取引条件を再検討できないかなども交渉が必要となります。
また、広告宣伝費に費用をかけている場合には、効果が十分に得られているかも分析してください。
限界利益率も改善が必要です。販売単価を今よりも上げることはできないか、在庫ロスが生じないような整理整頓は行っているか、請求漏れはないかしっかり確認しましょう。
財務体質を改善させるために
資産と負債のバランスを調整するため、受取手形や売掛金の回収を早期化することはできないか、短期借入金の返済方法の見直しにより長期借入金への変更はできないか、銀行借入を役員借入金で返済できないかなど検討します。
自己資本比率を改善させるために
増資の検討や、役員借入金は資本金に振り替えることができないか、繰越欠損金について役員借入金で債務免除できないかなど検討してみましょう。
まとめ
ご説明した格付や債務者区分を行う方法は、金融庁の金融検査マニュアルに記載されています。このマニュアルを基準として、それぞれの金融機関が評価や査定方法を独自に定めて判定を行います。独自の定めがあるとはいえ、基本的な考え方や方法はそれほど大きな差はありません。
多くの銀行では、決算書を基準とする定量評価が重視されるため、銀行融資を希望する場合には決算書の数値には注意しておく必要があります。
現在、中小企業の多くは正常先と要注意先の境界線上にあるといえますが、少しのきっかけで正常先から要注意先に評価が下がることもあります。そのため、すこしでも格付や債務者区分を改善できるように、固定費を削減させること、自己資本を充実させること、財務体質を改善させることなどに取り組みましょう。
資産と負債のバランスを調整する場合、受取手形や売掛金の回収を早期化することが求められますが取引先の都合もあり、自社だけではどうにもならないこともあります。この場合、ファクタリングなど売掛金の回収を早める方法もありますので、方法の1つとして検討してみてください。
様々な方向から自社が抱える問題点を分析し、どのように改善させていくべきか目標を立てて取り組むようにしていきましょう。
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