企業経営で欠かせないことの1つとして「労務管理」が挙げられますが、重要であるだけでなく大変な仕事です。
労務管理とはそもそも何をするのか、具体的な業務内容などがわからなければ、大変な仕事に適した人材を見つけることも任せることもできません。
そこで、労務管理はなぜ大変なのか、担当する業務の内容とスムーズな管理につなげるために押さえておきたいポイントについて詳しくわかりやすく解説していきます。
目次
労働に関する管理を行う「労務管理」の性質
企業経営に欠かせない「労務管理」とは、従業員の労働条件の見直しや労働環境の整備などを行うことが仕事です。
人事管理と一体で行わることもありますが、「労務」と「人事」の性質はそれぞれ異なります。
そこで「労務管理」の性質を理解するために、
- 「労務」と「人事」の異なる点
- 労務管理の必要性と目的
- 労務管理で行う業務
の3つについてそれぞれ説明していきます。
「労務」と「人事」の異なる点
「労務」の管理とは、たとえば社会保険や福利厚生の加入手続の他、勤怠管理とそれに伴う給与計算など、組織単位で行う事務作業がメインとなります。
しかし「人事」の管理では、人材を採用したり評価したりなど、直接従業員と関わる業務が多いといえます。
企業によっては「労務」と「人事」それぞれの管理の担当者を分け、兼務させていることも少なくありません。
労務管理の必要性と目的
「労務管理」の「目的」は、
- ・管理を効率化し生産性を向上させること
- ・コンプライアンスを順守することでリスクを回避すること
です。
従業員の労働条件を改善させ、環境を整えることは、結果として生産性を向上させることにつながります。
また、労務に関する法令を理解し、福利厚生などの諸手続を滞りなく進めていくことで、法令違反に該当することで科される罰則リスクを回避し、企業の信頼を守ることができます。
労務管理で行う6つの業務
企業などによって異なるものの、労務管理で行う具体的な業務は、主に次の6つです。
- 就業規則の作成
- 労働条件変更に伴う手続
- 社会保険・雇用保険の加入手続
- 勤怠管理と給与計算
- 安全衛生と従業員の健康管理
- 業務と労働環境改善に向けた取り組み
それぞれどのような業務か説明していきます。
①就業規則の作成
労務管理では、会社の決まりやルールといえる就業規則を作成することも業務の1つに含まれます。
労働基準法でもパート・アルバイトを含め10人以上の従業員を常時使用する場合には、就業規則を定め行政官庁に届出ておくことが必要とされています。
②労働条件変更に伴う手続
従業員の労働条件が変更されたときには、それに伴う諸手続が必要となります。
人材を雇用したときや、部署の配属が変わったとき、転勤や昇進など様々なタイミングで手続が必要となるでしょう。
たとえば雇用においては対象となる従業員に「労働条件通知書」の発行と通知が必要となり、給与の金額が変わったときには、給与計算にその内容を入力しなければなりません。
他にも退職手続や休職・異動の手続も労務管理担当者の仕事です。
③社会保険・雇用保険の加入手続
会社の「福利厚生」にも次のように2つの種類があります。
- ・法律により規定されている「法定福利
- ・会社が独自で決める「法定外福利」
どちらも労務管理の対象ですが、「法定福利」に含まれる手続である健康保険・雇用保険・労働保険など各種社会保険は特に重要です。
雇用の際には加入手続が必要となり、従業員の住所や扶養家族など変更があれば変更の届出が必要になります。
「法定外福利」は、たとえば育児支援・特別休暇・社宅制度など会社独自で設けている制度が該当しますが、これらの手続も労務管理担当者が行います。
④勤怠管理と給与計算
従業員の出退勤の時間・遅刻欠席の有無・休暇の取得などの勤怠管理は需要です。
また、データとした入力した情報をもとに、従業員の給与の支払い計算を行うことになります。
⑤安全衛生と従業員の健康
労働環境の是正を促す連絡、産業医のメンタルチェックを実施することも、労務管理担当者の仕事です。
従業員が安心し、安全な環境で快適に働くことができるように、安全衛生と健康診断管理は適切に行いましょう。
なお、労働安全衛生法では、従業員が50人以上の場合、1年ごとのストレスチェックを実施することが義務づけられていますので忘れないようにしてください。
⑥業務と労働環境の改善に向けた取り組み
労務管理では、労働環境全般を取り扱うことになります。
業務改善の取り組みなども重要な業務であり、コンプライアンス意識の高まりからハラスメント対策や長時間労働是正なども重要な仕事になっているといえるでしょう。
「人」に関する管理で抱えがちな3つのストレス
「労務管理」は現場で起きている様々な課題も踏まえつつ進めていくことになるため、マニュアルを作成しその通りに進めればよいわけではありません。
簡単な業務ではなく、管理を担当する人は大変な思いをするものですが、その背景には「人」に関する管理で抱えがちな次の3つのストレスが関係していると考えられます。
- 上司と後輩との間で板挟みになりがち
- 代表と退職者との間で板挟みになりがち
- 解雇するべきか判断が難しい
それぞれのストレスについて説明します。
①上司と後輩との間で板挟みになりがち
労務管理を担当する方は、会社の「上司」が「部下」との間で板挟みになりがちです。
たとえば「上司」から高圧的な態度で追い込みやプレッシャーをかけられた「部下」が、うつ病を発症し仕事を休まなければならない状態となったとします。
しかし上司は、「うつ病」は精神的な鍛え方が足らない状態で単なる甘えだといい、部下を復職させるように労務管理担当者に求めてくることもあるようです。
上司の要求を受け入れる必要はなく、部下のうつ病が改善するまで休職させることが必要ですが、上司と部下との板挟みになることは労務管理担当者の大きな負担となります。
②代表と退職者との間で板挟みになりがち
仮に従業員をリストラしなければならなくなったとき、「会社都合」による退職で処理をすることが必要ですが、経営者の中には「自己都合」による退職で処理することを指示することもあるようです。
「会社都合」による退職では、リストラとして扱われたことに腹を立てた元従業員から、損害賠償金を請求されるリスクを伴うこととなるでしょう。
さらに解雇を申し伝える時期などによって、解雇予告手当なども必要になる可能性も出てきます。
そこで従業員の「自己都合」による退職で処理したいと考える経営者がいるようですが、本当は「会社都合」による退職なのに「自己都合」で処理すると「労働基準法」に抵触することになりますので注意しましょう。
③解雇するべきか判断が難しい
従業員の中から、「解雇」の対象となる人材を選ぶことを指示されたとき、たとえばプライベートで付き合いのある同僚などがその対象に挙がれば辛い思いをすることになるでしょう。
中には家族を守らなければならないことや、年齢が高く再就職が厳しいなど、様々な事業を訴え解雇しないでほしいと頼まれるケースも出てきます。
しかし「解雇」の対象に選ばなければならなくなったとき、労務管理担当者は自らを責めてしまうこともあるようです。
解雇にしたことで疎遠になるだけでなく、恨みという感情を持たれる可能性も出てきます。
労務管理に向いている人材の4つの特徴
労務の具体的な仕事内容については後述しますが、まずはどのような人が労務に向いているのからから知っていきましょう。
労務管理を担当するとよい人材の特徴は、主に次の4つです。
- 細かな部分まで確認や見直しができる
- 事務処理が得意
- 法律に興味がある
- コミュニケーション能力が高い
それぞれの特徴について説明していきます。
細かな部分まで確認や見直しができる
労務管理の仕事は、給与・税金・福利厚生などが関係するため、数字の入力・計算やカウントにミスはないか細かな部分までしっかり確認と見直しすることが必要です。
従業員の給与などを扱う大切な仕事であることを自覚し、責任を持って細かい部分まで間違いなく管理できる人材でなければならないといえるでしょう。
事務処理が得意
労務管理の仕事は、数字の入力や確認など細かい事務処理が多いため、効率的に作業を進めていける方のほうがよいといえます。
たとえばWordやExcelなどのスキルが高く、正確に迅速に業務を行うことができるなど、事務処理を得意とする人材を選ぶべきです。
法律に興味がある
労務管理の仕事は、たとえば労働基準法・社会保険関連法・税法が関係するため、法律に興味がある方のほうが適しています。
法律はずっと同じではなく、改正なども行われるため最新の情報を入手することも必要です。
法律そのものに興味があり、働きながら法律を学びたいという方がよいでしょう。
労務管理の経験を経て、社会保険労務士や税理士の資格を取得したいという方ならなおよいといえます。
コミュニケーション能力が高い
労務管理は事務処理だけでなく、従業員とコミュニケーションを取ることも必要です。
会社という組織で働くのなら、コミュニケーション能力は高いほうが円滑に仕事を進めることにつながるでしょう。
適切な労務管理を行うとき必要になる3つのポイント
労務管理は適切に行うことが必要ですが、そのためには次の3つのポイントを欠かさないようにすることが大切です。
- 労働環境づくりの法令を理解することが必要
- 徹底した情報管理が必要
- 常に改善意識を持っておくことが必要
それぞれ労務管理に必要となるポイントについて説明していきます。
労働環境づくりの法令を理解することが必要
労務管理では労働基準法や労働組合法など、さまざまな法律の理解が必要となります。
労働法は労働環境が変化することに合わせ改正されるため、改正されたときにも迅速に対応していくことが必要となるでしょう。
徹底した情報管理が必要
労務管理では従業員の個人情報や社内の規定や情報など、外部に漏らしてはいけないたくさんの情報を扱います。
紙媒体とデータのどちらで管理している場合でも、情報の取り扱いは適切に行い、外部に漏らさないセキュリティ対策なども必要です。
常に改善意識を持っておくことが必要
労働環境を改善させていこうという意識を持つことも、労務管理に必要なことです。
ビジネスの場面は変化が激しく、正確に管理を行うだけでなく、バックオフィスによるサポートも欠かすことができません。
業務を効率化し、生産性を高めることができるように、常に問題点の発見・整理・改善を行う意識を高めていきましょう。
企業経営に欠かせない労務管理を適切に行う3つのメリット
先に説明したポイントを押さえつつ、適切に労務管理を行うことができれば、次の3つのメリットを得ることができると考えられます。
- 従業員のモチベーションを向上させることができる
- 人材を確保しやすくなる
- 訴訟リスクを抑えることができる
それぞれのメリットについて説明していきます。
従業員のモチベーションを向上させることができる
労務管理を行う上で労働基準法を順守することにより、従業員が働きやすいと感じる職場環境をつくることができます。
働きやすさを感じることでモチベーションも上がり、現場で高いパフォーマンスを発揮しやすくなるでしょう。
会社の業績と安定性向上のためにも、従業員のモチベーションアップは大切です。
従来までの労務管理方法に固執し、従業員から意見を出されても耳を貸さなければ、働きにくいと感じさせる環境になっている可能性があります。
現場で働く従業員の声が直接、労務管理担当者に届けられるような仕組みを作っておくことも必要となるでしょう。
人材を確保しやすくなる
労務管理が充実している会社は、外からの評判もよく、優秀な人材を確保しやすいといえます。
人材の質を向上させるためにも、労務トラブルなどのない会社を目指し、労務管理を充実させましょう。
訴訟リスクを抑えることができる
適切に労務管理ができていない会社は、従業員から訴訟を起こされてしまうリスクを高めます。
訴訟により会社の評判や信用は大きく低下し、収益性や安定性にも悪影響が及ぶこととなるでしょう。
たとえば、残業時間や休日の管理など、従業員から訴えられることのないように、適切に行うようにしてください。
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