どの企業も決算期を迎えると、法人税を納めるため、税務申告用の書類を作成することが必要です。
企業の税務申告で欠かせないのが法人税申告書の作成業務であり、どのような種類の書類を準備しなければならないか把握しておくべきといえるでしょう。
そこで、税務申告において法人税申告書を作成するとき、必ず押さえておきたいポイントについて解説していきます。
目次
法人税の申告が必要な「法人」とは
法人格にも種類があり、株式会社を含む「普通法人」や、「協同組合」「人格のない社団」「公益法人」「公共法人」などがあります。
法人税の納税義務はこれらすべての法人にあるわけではなく、事業で収益を生み出している普通法人や協同組合などに限定されます。
人格のない社団や公益法人は収益事業の所得にのみ法人税が課税されることとなり、公共法人は法人税の納税義務はありません。
- 普通法人…株式会社・有限会社・合同会社・医療法人・企業組合・日本銀行などの営利法人
- 協同組合…農業協同組合・漁業協同組合・信用金庫など、共通の目的のため集った個人や組合
- 人格のない社団…PTA・管理組合・研究会・同窓会など多数の人や財産など同じ目的のもとに集まるものの、法人格を持たない団体
- 公益法人…一定の社団法人・財団法人・学校法人・宗教法人・社会福祉法人など、公益を目的とした非営利法人
- 公益法人…地方公共団体・金融公庫・国立大学法人・地方独立行政法人・日本中央競馬会・日本年金機構・日本放送協会など公共性の目的を持った法人
法人税申告書とはどのような書類か
法人税申告書は1年の利益に対し、会社が納めなければならない法人税を計算するための書類です。
法人の税務申告には、
- ・法人税
- ・消費税
- ・地方法人税
- ・法人事業税
- ・法人住民税
などがあります。
このうち法人税と消費税は決算書に基づき申告書を作成し、地方法人税・法人事業税・法人住民税は法人税に連動して作成するため、法人税申告書を作成するとその他の税務申告の基盤になるともいえるでしょう。
そして法人税は決算書の「利益(収益-費用)」に対する課税ではなく、「所得(益金-損金)」に対して課税されます。
「益金」と「損金」は法人税法上算入する金額に要件があるため、「収益」「費用」と必ずしも同じではありません。
費用の中には、交際費・寄付金・税金・減価償却費・引当金繰入・評価損など損金算入できないものもあるため注意しましょう。
もし損金算入できない費用を分けて計算しなければ、法人税を計算するときの正しい所得金額を算出できません。
法人税の税務申告で作成しなければならない複数の別表
法人税申告書を作成するときには正しい所得金額を計算することが必要ですが、そのときには複数の別表を使います。
別表には1から18までありますが、そのうち別表1が確定申告書です。
別表1以外の別表は確定申告書の明細書という扱いとなり、これらを合わせて法人税申告書とします。
法人税申告書は別表の小さい数の順番に作成すればよいわけではないため、複雑で難しいと感じるケースも少なくないようです。
法人税申告書の別表の種類
法人税申告書の別表には複数の番号が付されていますが、確定申告書である別表1に記載される法人税額が正しいことを説明するため、別表2以降の書類や付表などが必要です。
明細書や届出書など、付表を合わせれば100以上の数となりますが、決算内容によって必要な書類は異なるため、すべてを提出しなければならないわけではありません。
別表の種類とその内容は次のとおりです。
- 別表1 各事業年度の所得に係る申告書
- 別表2 同族会社等の判定に関する明細書
- 別表3(1) 特定同族会社の留保金額に対する税額の計算に関する明細書
- 別表3(1)付表 特定同族会社の留保金額から控除する留保控除額の計算に関する明細書
- 別表4 所得の金額の計算に関する明細書
- 別表5(1) 利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する明細書
- 別表5(1)付表 種類資本金額の計算に関する明細書
- 別表5(2) 租税公課の納付状況等に関する明細書
- 別表6(1) 所得税額の控除に関する明細書
- 別表7(1) 欠損金又は災害損失金の損金算入等に関する明細書
- 別表8(1) 受取配当等の損益不算入に関する明細書
- 別表14(2) 寄附金の損金算入に関する明細書
- 別表14(5) 完全支配関係がある法人の間の取引の損益の調整に関する明細書
- 別表15 交際費等の損金算入に関する明細書
- 別表16(10) 資産に係る控除対象外消費税額等の損金算入に関する明細書
そして数ある別表のうち、特に重要となる別表1~7の概要と作成における注意点は次のとおりです。
別表1 各事業年度の所得にかかる申告書
法人税申告書の基盤となる確定申告書であり、法人の基本情報など1~47の項目が設けられています。
別表1には青色申告書と白色申告書がありますが、「普通法人等の青色申告」の概要と注意点は以下のとおりです。
- ・期末の申告だけでなく中間申告や修正申告にも使用できる(中間・修正申告用の記入欄もあり)
- ・「代表者自署押印」には代表者の署名が必要
- ・「一般社団・財団法人の区分」は該当するときのみ記入
- ・「税務署処理欄」は原則記載不要
- ・「売上金額」は記入(消費税の事業者免税点判定の参考になるため)
- ・「翌年以降送付要不要」で「不要」にチェックを入れているときは、翌年度以降に「要」にチェックを入れたとしても別表と勘定科目内訳明細書の送付はないため注意する
別表2 同族会社の判定に関する明細書
別表2は、「同族会社」「特定同族会社」に該当するか判断するための書類であり、もしも該当するときには納税額が異なるため注意しましょう。
同族会社や特定同族会社かの判定は、「株主との関係性」と「保有株式比率」で次のように異なります。
- ・「特定同族会社の判定割合(17)」が 50%超であれば特定同族会社となる
- ・「特定同族会社の判定割合(17)」が 50%以下で「同族会社の判定割合(10)」が50%超であれば同族会社となる
- ・「同族会社の判定割合(10)」が 50%以下なら非同族会社となる
別表3(1) 特定同族会社の留保金額に対する税額の計算に関する明細書
別表2で特定同族会社と判断される場合には、一部の株主に経営権が集まっており納税額が縮小されるリスクも考えられます。そのため、特別な規定として「特定同族会社の特別税率の規定」が適用されることになります。
別表4 所得の金額に関する明細書
会社の利益と所得は同じではないため、損益計算書の利益または損失をもとに一定の調整を加え、税務計算で必要となる所得や欠損の金額を計算することが必要です。
そのため「加算」の欄は、会計上は収益ではないものの税務上は益金として扱われる役員給与や交際費の一部などが該当します。
「減算」欄は、会計上は収益であるものの税務上は益金に該当しない・会計上は費用ではないものの税務上は損金に該当するものが対象となります。たとえば還付法人税や受取配当金などです。
この別表4で行う調整が別表1の計算基礎となるため、ミスなく記載するようにしましょう。
別表5(1) 利益積立金額及び資本金などの計算に関する明細書
別表5は貸借対照表の機能を有する書類であり、期首の利益積立金額から当期の所得金額計算の異動を別表4の「加算」「減算」で調整し、利益積立金額を計算します。
別表6(1) 所得税額の控除に関する明細書
期中に支払われる利子・配当・償還差益などに対して課税された所得税額控除を受けるときに必要となる書類です。
別表7(1) 欠損金又は災害損失金の損金算入に関する明細書
繰越欠損金の繰越期間は9年間に延長されています。
法人税申告書作成の手順
法人税申告書の作成は複雑と捉えられがちですが、主に作成の手順は次のとおりとなります。
- 決算書から別表6(1)・別表15・別表8(1)など、損金を計算するときに必要となる別表の記入・算出をしておき、情報をまとめておく
- ①でまとめた情報や決算書を別表4へ転記し、所得金額を算出する
- 別表4で計算した所得金額を別表1に転記し、法人税額を算出す
- 法人税額が確認できれば、別表4の所得金額から地方法人税を計算し、地方法人税申告書を作成する
- 税額計算に関する申告書の作成後、別表5(2)・別表5(1)・別表4を完成させる
- 特定の株主などがいる場合には別表2も作成する
法人税の申告書作成を3つのステップに分けると次の流れになります。
ステップ1 前期繰越額・決算利益などを転記する
別表5(1)と(2)はどちらも前期繰越額の転記をします。
別表5(1)の期首現在利益積立金額や期首現在資本金などは前期の申告書から転記し、別表5(2)の期首現在未納税額や当期中の納付税額などを記載します。
別表4には当期利益または当期欠損の金額を転記しましょう。
ステップ2 所得金額を計算する
別表4で加算・減算など調整を行い、それぞれの明細書から転記し、所得金額を確定します。また、必要な項目は別表5にも転記しましょう。
加算・減算したときに税務上、有効となる申告調整には、「任意的申告調整事項」と「必要的申告調整事項」があります。
「任意的申告調整事項」は申告書での調整は法人の任意ですが、調整しなければ税法上の摘要を受けることはできません。
「必要的申告調整事項」は任意ではなく、必ず調整しなければならず、もし調整しなければ税法上の更正処分として扱われます。
なお、別表4で加算・減算することの多いのは次のような調整です。
- ・減価償却費や引当金の加算・減算
- ・役員給与・寄付金・交際費の損金不算入
- ・各種引当金・準備金などの加算・減算
ステップ3 法人税額を計算する
それぞれの明細書で計算した金額を別表1にまとめ、法人税額・地方法人税額を算出します。
別表4・別表3・別表6・別表7などを参考に納税額を確定させましょう。
法人税申告書作成を円滑に進める上で押さえておきたいポイント
法人税申告書を作成するときには、別表や添付書類を準備することが必要です。
慣れない作業で大変な労力と時間がかかることもありますが、次のポイントを押さえておくとスムーズに業務を進めることができるでしょう。
決算は正確に終わらせること
法人税申告書を作成する上で、そもそも決算内容が間違っていれば正しい税額は計算できません。
そのため、日頃から正確に記帳・確認することが必要です。紙媒体で帳簿を記帳しているときには、作成や転記ミスなどないか適切に管理しましょう。
また、決算整理に矛盾が発生していないか、勘定科目内訳明細書を正しく作成しておくことで確認しやすくなります。
情報の転記・計算をミスなく行うこと
法人税申告書の作成においては決算書の情報を正しく転記することも必要となります。
入念に確認できる体制を整備し、法人税額を間違いなく計算できるようにしておきましょう。
また、法人税など申告書を作成可能とするシステムもあるため、日々の記帳を会計ソフトなどで行い、システムと連携すればミスを防ぎやすくなります。
同時に添付書類も準備すること
法人税申告書は確定した決算内容に基づき税額が計算されているか、証明するための資料として次の添付書類提出が必要です。
- ・決算報告書(貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書)
- ・勘定科目内訳明細書
- ・法人税事業概況説明書
- ・適用額明細書(租税特別措置を適用するときに必要)
- ・税務代理権限証書(税理士に申告書作成を依頼したときに必要)
これら添付書類作成のときに、決算書や法人税申告書の記載ミスなどに気がつく場合もあるため、もしも間違いを見つけたときには提出前に正しく修正しましょう。
法人税申告書の提出期限と提出方法
法人税申告書は、原則、事業年度が終了日の翌日から2か月以内に所在地管轄の税務署に提出しなければなりません。
たとえば決算日が3月31日の場合であれば、その2か月後である5月31日が納付期限です。申告期限・納付期限が土日祝日などの場合は、その翌日が期限となります。
申告書を提出する方法は、窓口への持参・郵送・電子申告など選ぶことができますが、窓口に持参するときや郵送する場合には、提出部数が事業規模により次のように異なる点に注意してください。
- ・会社の資本金が1億円以上の場合…提出部数は3部・OCR用紙も必要
- ・会社の資本金が9千万円以上または法人税額が5千500万円の場合…提出部数は2部・OCR用紙も必要
- ・上記に該当しない企業の場合…提出部数は1部・OCR用紙も必要
上記の基準は税務署により異なる場合もあるため事前に確認しておくとよいでしょう。
提出部数を準備したり持参・郵送したりといった手間や時間を省きたいなら、電子申告のほうがオススメです。
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