中小企業の経営には財務分析が欠かせませんが、経営指標を理解することがまずは大切です。
日常的に財務分析を行っていれば、中小企業が今どのような現状にあるのか、業績を認識し未来を予測する精度も高めることができるからといえます。
財務分析が苦手だという中小企業経営者もいるでしょうが、どのような指標を用いればよいのか、その方法を徹底解説していきます。
目次
財務分析とはどのような手法か
財務分析とは中小企業に限らずどのような会社でも、共通の分析手法により現状などを把握するときや外部に会社の実態を公表するために行います。
株式市場や信用会社では活用されることの多い経営分析の手法といえますが、その中でも財務分析は客観性と信頼性の高い財務諸表など、会計の情報を基礎とした分析結果です。
中小企業経営で用いる指標とは
経営指標とは財務諸表などの数値を有益な情報へと変換し、経営改善における基準とするものです。
中小企業を安定した経営へと導くための必須ツールといって過言でなく、経営指標を活用する度合いが大きくなれば経営や業績が改善される精度やスピードが高まります。
現状と目標としている理想との乖離を明確にし、何が問題かを洗い出すことで会社の成長性・生産性・収益性・安全性といった部分における課題を分析することができます。
その判定は会社の活きた数字を使うこととなりますが、主に次のような経営指標が用いられています。
財務分析の主要項目は、主に次の5種類に分けることができます。
収益性分析
企業の収益水準の分析であり、主に損益計算書のデータを用いて行います。
売上総利益・営業利益・経常利益などの利益率、総資本利益率(ROA)、自己資本利益率(ROE)といった指標も分析では使用します。
収益性分析で活用したい「売上総利益高営業利益率」
会社の収益性を分析するときには「売上総利益高営業利益率」を使います。
会社の本業による儲けである利益水準を示す経営指標であり、商品力や競争力など収益性を確認できます。
計算式は、
売上総利益高営業利益率=(営業利益÷売上総利益高)×100
となり、優良とされる水準はプラス10%以上です。
成長性分析
企業の売上高や利益水準の伸び率に対する分析であり、主に複数年度の損益計算書のデータを使って行います。
売上高・営業利益高の各種成長率、年平均成長率(CAGR)などを指標として用いります。
成長性分析で活用したい「売上高成長率」
会社の成長性を分析するときに用いる指標が「売上高成長率」です。
前年売上と比較したとき、どのくらい売上が伸び成長したかを示します。
計算式は、
売上高成長率=〔(当期売上高-前期売上高)÷前期売上高〕×100
で算出できます。
優良とされる水準はプラス5%以上です。
安全性分析
企業の資産調達構造や支払能力・返済能力に対する分析であり、主に貸借対照表のデータを使います。
長期・短期の支払い能力を評価することとなりますが、自己資本比率・負債比率・流動比率・当座比率などの経営指標を用いて行うことになります。
安全性分析では「自己資本比率」を指標とする
会社の安全性を分析するときには「自己資本比率」を目安とします。
会社の総資本に占める自己資本の構成比率を示すため、資本力や支払能力などを分析する上で有効とされています。
計算式は、
自己資本比率=〔自己資本(純資産)÷総資本(負債の部+資本の部の合計)〕×100
となりプラス40%以上で優良水準と認められます。
自己資本比率は自己資本と他人資本、そして自己資本と他人資本を合計した総資本の3種類の指標を用いて計算します。
自己資本は純資産であり自分のお金です。自らが調達した資金が自己資本であり、利益の積み立てなどであるため返済義務はありません。その一方で他人資本は、金融機関からの融資や借入れなど、他人から調達した資金なので返済義務を負います。
返済義務のない自己資本と返済義務がある他人資本の合計が総資本であり、総資本に占める自己資本の比率が大きければ大きいほど自己資本比率は高くなり、経営の安全性が高いと判断できます。
自己資本比率の適正水準
中小企業の自己資本比率で、適正な水準とされる目安は次のとおりです。
- ・自己資本比率50%以上…優良企業とされる比率で、70%を超えると無借金経営である超優良企業といえます。
- ・自己資本比率20~49%…一般的な水準と判断でき、40%以上であれば倒産リスクはほとんどないといえます。
- ・自己資本比率10~19%…資本力に乏しい状態を示しますが、ただちに経営悪化する危険性が高いわけではありません。20%以上を目指し利益体質を改善することが望まれます。
- ・自己資本比率9%以下…資本欠損のリスクが高い状況であり、すでに赤字経営に陥っているのなら利益体質を早急に改善させ黒字化させていくことが必要です。
もしも自己資本比率がマイナスをあらわす場合には債務超過となっていることを示します。
債務超過とは総資本より他人資本が上回っている状態であり、不採算事業を閉鎖することや人員整理の他、借入金の返済計画をリスケジュールするといった対策が必要と考えられます。
自己資本比率が高い企業の特徴
借入金や買掛金など他人資本が少なく、現預金や純資産が多いと自己資本比率は高くなります。
また、現金化までがスピーディなど、キャッシュフローを重視した経営を行っている会社は自己資本比率が高いことが多いといえるでしょう。
他にも在庫を多く抱えていない、利益水準が高い、設備の減価償却が速く不良債権や不良資産を多く保有していないといった企業なども自己資本比率は高めです。
自己資本比率が低い企業の特徴
借入金や買掛金など他人資本が多く、現預金や純資産が少ないと自己資本比率も低くなってしまいます。。
キャッシュフロー重視の経営も定着できておらず、資本効率が悪化した経営を続けていると自己資本比率は低くなりがちです。
過剰に在庫を抱えていたり設備の減価償却が遅かったり、不良債権や不良資産も多く保有していると自己資本比率は低下します。
生産性分析
企業が投入した経営資源による付加価値や労働生産性に対する分析であり、財務諸表と勤怠管理データなどを使います。労働分配率・人時生産性といった経営指標を用いて行うことが一般的です。
生産性分析に用いる「人時生産性」
会社の生産性を分析するときには「人時生産性」を用います。
労働投下に対する時間に対する生産性を示す指標であり、労働効率や経費効率などを分析する上で有効です。
常に増加していることが望ましく、
人時生産性=営業利益金額÷総労働時間
という計算式で算出できます。
財務分析における効率性分析
保有する資産(資本)をどのくらい有効・効率的に活用し、売上や利益などを上げることができているか分析します。
財務諸表のデータを用いて行いますが、効率性分析でもお金の投入要素の効率性を確認する財務分析においては、指標として総資本回転率・在庫回転率・売上債権回転日数などを指標として用いります。
総資本回転率=売上高÷総資本(総資産)
在庫回転率=今期の総出庫数÷今期の平均在庫数
平均在庫数=(期首在庫数+期末在庫数)÷2
売上債権回転率=売上高÷売上債権
売上債権回転期間=売上債権÷売上高×365日
なお、お金の投入要素以外の効率性を確認し管理会計的に分析するのであれば、労働生産性(労働分配率)や人時生産性などを指標とします。
人時生産性=粗利益高÷総労働時間
労働分配率=人件費÷付加価値
適正なそれぞれの数値の目安
総資本回転率は大きいほど、少ない資本をうまく活用し多くの売上を上げていることをあらわします。
在庫回転率が大きいほど効率的に在庫を売上に転換できているといえるでしょう。
売上債権回転日数は短いほど、売上代金を回収するまでがはやく、手元の運転資金を増やすことができているといえます。
管理会計(内部分析)における経営分析の基本
管理会計(内部分析)では、会社の現状や実態をつかみ経営に役立つ数字を導き出すために分析を行います。
財務分析に加え、業種業態により異なる経営指標の適正水準を把握し、企業独自の分析手法や指標を発掘することが必要となるでしょう。
なお、どのような業種でも有効活用が可能となる経営指標と分析手法は次のとおりです。
人時生産性
会社の生産性を分析するときにも用いる人時生産性は、労働の投下に対しての時間あたりの収益性の評価です。
本業の人時生産性は、
営業利益金額÷総労働時間
を分析することが最も重要であり、常に増加していると適正な水準といえます。
現預金や純資産の推移
会社が倒産するのは赤字経営が続いたときではなく、手元の現金が枯渇したときです。
純資産がマイナスになれば倒産リスクの高い債務超過に陥ることとなるため、現預金と純資産の推移を分析することは会社継続において必要なことです。
常に現預金や純資産が増加するような経営努力が必要となるでしょう。
借入金償還期間
借入金償還期間とは、借入金など借りたお金を何年で完済することができるかを示します。
企業経営では借入金が悪いこととは言い切れませんが、借金はできるだけ少ないほうがよいと考えてしまうものです。
ただ、自己資本だけで資金を準備することは限界があり、設備投資や事業拡大においては借入金で先行投資し、企業発展につなげることも必要となります。
しかし借入金に依存しすぎてしまえば経営リスクはきわめて大きくなってしまうため、借入金の管理を適切に行うことが必要となるでしょう。
借入金を管理するときには、
- ・売上規模・収益力・保有する資産などに対し、借入金額が過大になっており返済能力に見合っていない状況となっていないか
- ・資金使途と調達の関係のバランスがとれているか
を確認します。
このとき、借入金の返済能力を確認する上で用いる指標が借入金償還期間です。
借入金償還期間(年)=借入金÷キャッシュフロー=(長期借入金+短期借入金)÷(経常利益×0.6+減価償却費)
という計算式で確認できます。
税引き後の利益と減価償却の合計であるキャッシュフローにより、今借りているお金を何年あれば完済できるかを示しており、数値が小さければ小さいほど安全性が十分に確保できているといえます。
10年以下ならとりあえず安全圏内といえますが、20年を超えれば借入金過大・キャッシュフロー不足の状態をあらわします。
借入金償還期間が長いときには、過剰な在庫や遊休資産は処分し、借入金返済を進めながら資金ショートを起こさないための借り換えやリスケジュールの検討も必要となります。
売上総利益高営業利益率
売上総利益高営業利益率とは、本業の収益性を評価する経営指標であり、利益水準を示す「(営業利益高÷売上総利益高)×100」を使って分析していきます。
標準とされる水準は10%以上ですが、優良といえる20%以上を目指しましょう。
「経常利益増加率」で成長性を利益から確認
会社の成長性は、売上や利益などがどのくらい増えているか、時系列で把握する分析を行いましょう。
このときに用いる指標が経常利益増加率で、
経常利益増加率(%)=(経常利益-前期経常利益)÷前期経常利益×100
という計算式で確認できます。
「経常利益」は企業が本業などの事業活動から得ることができる利益であるため、経常利益増加率が高ければ儲けが増えていることを意味します。
しかし売上高が上がっているのに経常利益増加率がマイナスや減少しているときは、売上高から売上原価を差し引き売上総利益は増えているか減っているか確認してください。
仮に売上総利益が減っているのなら、商品そのものの採算性が低下している可能性が考えられます。
売上総利益が増えているのに経常利益は減少しているのなら、販売費・一般管理費・支払利息などが売上高の伸びよりも増えていることをあらわすため、業務効率化などでコスト削減していくことが必要です。
まとめ
中小企業にとって財務分析は欠かせない作業です。
現状を知り、問題点を把握・分析することで、競合他社に勝つことのできる会社経営が可能となります。
注目し確認しておきたい指標や数値はいろいろありますが、いずれにしても手元の現金が枯渇すれば会社は倒産し、分析どころではなくなってしまいますので資金ショートさせない経営が必要です。
数値を追い求めることも必要ですが、同時にキャッシュフローを重視した経営を心掛けるようにしましょう。
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