中小企業の資金調達の方法といえば、銀行融資や不動産担保融資などに依存しがちです。しかし、経済産業省中小企業庁ではこのような融資制度に過度に依存することなく資金を調達できるよう、売掛債権担保融資保証制度を創設するなど売掛債権が流動化されるように普及を進めています。
中小金業は売掛債権を多く保有しているので、ただ持っておくのではなく資金の調達に有効に活用できれば、悪化しがちな資金繰りを安定させることにも繋がるでしょう。
そこで、うまく売掛債権を資金の調達方法に活用できるように、いくつかある売掛債権流動化の方法とその内容をご説明します。
目次
売掛債権を流動化させる目的
売掛債権は決済期日が到来するまで一定期間を要します。1か月という場合もあれば半年など、数か月入金されるまでの期間があけば空くほど資金繰りは悪化してしまうでしょう。
売掛債権の入金期日を早め回収することができれば、資金繰りの悪化に悩むことも少なくなるはずです。
その手法として注目されているのが売掛債権流動化です。
決済期日が到来する前に、保有する売掛債権を第三者に譲渡する、または担保として融資を受けるなどの方法で現金化させることをいいます。
なお、どのくらいの金額を調達できるのかは、売掛債権に関する信用力に依存する方法といえるでしょう。
売掛債権を流動化させる3種類の手法
売掛債権を流動化させるために用いられる手法には次の3種類があります。
売掛債権証券化
保有している売掛債権を特定目的法人(SPV)に譲渡し、その対価を受け取るという方法です。
特定目的法人(SPV)は、売掛債権などの資産を買い取り、決済期日に回収予定の代金を裏付けとして証券を発行する事業体です。
証券化にあたり、企業と投資家の媒介を行いますが、証券化の仕組みが複雑であることなど手続きが難しい部分が難点です。
●売掛債権証券化の2つの手法
売掛債権証券化には特定先方式とプール方式があります。
特定先方式は、譲渡された売掛債権自体の信用力を評価した上で証券化し投資家に販売される方式です。
もう一方のプール方式は、企業が保有する小口の売掛債権を複数譲渡した後、売掛債権全体の信用力を統計的に判断し、証券化されるという形です。
●売掛債権証券化のメリット
売掛債権を譲渡する企業としては、資金の調達方法を多様化させることができることや、オフバランス化を図ることができること、売掛債権のリスクを移転できることなどがメリットです。
ファクタリング
ファクタリングにも種類がいくつかあり、もっとも基本的なファクタリングとして知られているのが買取ファクタリングです。
保有する売掛債権をファクターと呼ばれる企業に譲渡し、その対価を資金として受け取る方法なので、比較的容易に資金を調達できる手法といえます。
証券化することと違うのは相対取引が基本であることです。売掛債権を買い取ったファクターが売掛先からの債権を回収することになると理解しておきましょう。
●ファクタリングと売掛債権担保融資の異なる点
共通する部分も多いですが、もし売掛先が倒産したときにその金額の支払いを請求する権利である償還請求権はファクタリングにはありません。この償還請求権がない上にオフバランス化が可能であるなど、ファクタリングのほうが優位であるといえます。
●ファクタリングのメリット
新たな資金を調達する方法を確保できること、保有する売掛債権が抱えるリスクを切り離すことができること、そしてオフバランス化が可能であることがメリットです。
特に売掛債権のリスクを切り離せるという部分については、ファクターが売掛債権を保有することになるので、売掛債権証券化のようなリスクの移転性が限定されるといったことがありません。
また、売掛債権の管理や回収業務にかかる手間を省くことができるので、業務の効率化が可能である点もメリットといえるでしょう。
売掛債権担保融資
売掛債権の信用力を担保に融資を受ける方法です。売掛債権を売却するのではなく、担保として借り入れを行うことになるので、調達した資金は返済しなければなりません。
また、返済がされなかった場合には売掛債権の所有権は債権者に移ることになります。
一般的に融資の際に差し入れる資産には不動産などが用いられることが多いですが、資産価値のある物件を所有していなくても、安定した売掛債権を担保として差し入れて借り入れができます。
●売掛債権担保融資のメリット
融資を受けたいけれど担保となる資産を保有していない場合でも、売掛金を保有していれば借り入れができること、融資された借入金は売掛金の入金で決済されるので返済日に資金を工面しなくてもよい点がメリットです。
売掛債権を流動化させるための要件
売掛債権を流動化させるため、手続きを円滑に進めるには次の要件を備えておくようにしましょう。
売掛先のデータを管理すること
売掛債権を流動化させる上で理解しておきたいのは、売掛債権の信用力に大きく依存する資金調達の手法であるという点です。
そのため、売掛先のデータや決済期日、回収する金額などの情報をタイムリーに管理しておくことが求められます。
対抗要件に具備すること
売掛債権を譲渡することは売掛債権に対するリスクを切り離すことが可能です。
ただ、売掛先から承諾を得た上で通知を行うことや、法務局で譲渡に関する債権譲渡登記を行うなど、対抗要件を具備するためには負荷がかかってしまいます。
対抗要件とは、当事者間で成立した権利関係を、当事者以外の第三者に対して主張するための法律要件のことです。
ただ、この対抗要件に具備しておかなければ、いざというときに誰が権利を持つのか主張できなくなってしまいます。
売掛債権を流動化させることで共通するメリット
売掛債権を流動化させる方法は先に述べた通り3つあります。ただ、それぞれ方法は異なっても共通するメリットして、
- ・早期に資金調達することができ、資金繰りに余裕ができること
- ・資産を圧縮しスリム化でき、決算書を改善できること
- ・買掛金の支払いなどでの現金払いが可能になること
- ・リスクマネジメントに役立つこと
- ・キャッシュフロー経営が行えること
などが挙げられます。
この中でも早期に資金を調達することが可能であること、決算書を改善できる点は注目です。
資金を早期に調達して資金繰りに余裕ができる
本来、現金化されるまで数か月という期間を要する売掛債権を、流動化することで期日より早めに現金に換えることができます。
たとえば建設業界など、受注した工事が引き渡しされるまで工事にかかった費用の回収はできません。大きな工事になると完成するまで何か月もかかるので、それまでに発生した資材や材料の代金や人件費などの支払いに困ることも少なくないのです。
資金繰りが厳しい状態になりやすい業界ともいえますが、もし支払いができなくなれば信用にかかわりますし、手元の資金が不足していることで受注したい仕事を請け負えなくなることは避けたいものでしょう。
このような場合において、売掛債権の流動化を活用することにより、資金繰りを正常化させることができます。資金繰りに余裕が出ることで、新しい事業に資金を充てることもできるでしょうし、信用力も高まります。
●日本で売掛債権の流動化が浸透していない理由
そもそもアメリカでは古くから資金を調達する方法として活用されていましたが、日本では資金繰りが厳しい企業しか使わない手法などネガディブなイメージが高く、有効に活用されていませんでした。
しかし、現在では国が主導して売掛債権を流動化し、資金を調達することを勧めているので安心して利用できる方法となっています。
決算書を改善できる点にも注目を
売掛債権の流動化は決算書が改善できることも魅力です。
売掛金は貸借対照表では資産として処理されますが、流動化により貸借対照表からオフバランス化させることができます。
オフバランス化とは、貸借対照表から資産や負債を減らすことですが、それにより総資産利益率が改善できるので、取引先や銀行からの評価も高まります。
資産は多いほうがよいのでは?と思うかもしれませんが、資産に対して利益が少なければ効率よく経営できていないとみなされますので、オフバランス化で総資産利益率が改善されれば効率的に資産が利益を生んでいると評価されやすくなります。
さらにキャッシュフローも改善させることができるので、健全なキャッシュフローを示すことができ、業績評価が高まります。
売掛債権流動化で共通するデメリット
売掛債権を流動化させる上でのデメリットとして挙げられるのは、資金を調達する上でコストが発生するという点です。
どの方法を利用するのかによって発生する費用はことなりますが、いずれの方法でも利息、または手数料などがかかるので、本来受け取るはずだった売上代金の一部が減少する点は理解が必要です。
売掛債権を担保として融資を受けるなら、利息分を上乗せした返済が必要なので、その分、売上代金が減少します。
売掛債権を譲渡して現金化させるファクタリングの場合には、契約方法によって異なりますが売掛債権額の何割かを手数料として支払うことになります。
仮に債権譲渡登記が必要な場合には、さらに登記費用や司法書士に対する報酬、印紙代などの費用もかかると考えておきましょう。
実際にどのくらいの資金を調達したいのか、発生するコストを差し引いて手元に残る資金で不足は生じないのか把握しておかなければ、資金化させた後でまた不足してしまうかもしれませんので注意しましょう。
売掛債権の流動化で特におすすめの方法
いくつかある売掛債権の流動化の方法のうち、特にファクタリングは最も利用しやすい資金調達の手法といえるでしょう。
他の流動化させる方法より手続きに手間がかからないことが特徴で、審査などもスムーズです。
たとえば売掛債権担保融資は手続きや審査まである程度日数を要することになりますし、売掛債権証券化の場合は信託銀行や特別目的会社などを通すことになるので複雑な手続きを経た後で資金を手にすることになります。
その点、ファクタリングは準備しなければならない書類も少なく、審査に時間がかからないことが特徴です。
ファクタリングにも種類がある
ファクタリングには2社間と3社間という契約の方法に種類がありますが、3社間は利用する企業とファクター、売掛先という3社が関係する取引であるのに対し、2社間は売掛先を間に挟みません。
そのため、手続きが非常にスムーズで、最短で即日現金化を可能とするファクターも存在します。
融資ではない点も大きなメリット
さらに融資ではないので、調達した資金を返済する必要もなく、負債を増やさないという点もメリットといえます。
先にも述べたとおり、償還請求権なしの取引なので、売掛先が倒産してしまい売掛金が回収できなくなった場合でも、現金化した代金を返済する義務は発生しません。
利用の際に審査は行われますが、融資ではないので比較的ハードルが低めであり、財務状況が悪化している企業や赤字決算、税金滞納などがあっても、売掛債権の信用力が高ければ利用できる手法です。
融資とは審査基準が異なるので、もし融資を申し込んだけれど断られてしまった…という場合でもファクタリングなら利用できる可能性があります。迷ったらまずはファクターと呼ばれる企業に相談してみるとよいでしょう。
まとめ
このように売掛債権を流動化させることで資金を調達する方法はいくつかあります。いずれの方法もメリットとデメリットがありますが、特に中小企業が利用しやすいのはファクタリングであるといえるでしょう。
中小企業は売掛債権を多く保有しているので、ただ保有しているだけでなく資金の調達方法に活かすことができることが望ましく、国も売掛債権を有効に活用することを勧めています。
今後はさらに中小企業で有効に活用されるようになると考えられますが、ファクタリングなどは売掛債権を譲渡するファクターと呼ばれる企業選びを慎重に行うようにしてください。
中には法外といえる手数料を請求してくれる悪徳な業者も潜んでいるので、必ず数社から相見積もりを取得してどのくらいの手数料がかかるのか、希望する内容でサービスを提供してもらえるのかなど確認した上で決めるようにしましょう。
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