もし売掛金の回収がまだという取引先が倒産してしまったという通知を受け取ったとき、もう代金を回収することは諦めなければならないのだろうか…と思うかもしれません。
しかし、予定していた売掛金が回収できなくなることで、様々な支払いが行き詰ることとなり、別途資金を調達する必要が出てきたり、資金の調達が叶わなければ取引先に続き連鎖倒産という最悪の事態を招く可能性もあります。
そこで、もし売掛金が未回収の取引先が倒産してしまった場合、どのような対応を検討すればよいのか確認しておきましょう。
目次
もし取引先が倒産してしまったときには
一般に、破産手続が開始された場合には、取引先の財産は裁判所が選任する破産管財人が管理を行うこととなります。
そのため、売掛金を含むすべての債務に対し、破産管財人が集めた取引先の財産を配分するという形で支払われる可能性があります。ということは、売掛金満額を回収することはまず難しくなると考えておくべきです。
反対債務があるなら相殺が可能
反対に、取引先に対する反対債務があるという場合には、取引先に対する売掛金の範囲内で相殺することは可能です。
ただ、売掛金は一方的に回収することと同じ効果が生じるため、取引先に対して請求可能な状態であることが必要となります。もし相殺を希望する場合には、内容証明郵便を送付することが一般的です。
反対債務があっても相殺しない場合
反対債務はあるけれど、相殺を選択しない場合には、取引先の破産管財人は債権者に対して1か月以上の期間で定めた期間の間に、相殺するか確答するような催告が可能となっています。
そのため、破産管財人から催告が通知される可能性があるので、この催告期間に相殺することを選ばなければ、破産手続の中で相殺したいという主張は通らなくなります。そのため、本当に相殺しなくてもよいのかよく考えた上で決めることが必要です。
取引先の倒産が民事再生手続や会社更生手続の場合
取引先の倒産の種類が、民事再生や会社更生などの手続きの場合には、裁判所が定める債権届出期間内に相殺を行う必要があります。
破産手続では破産管財人からの催告を待っていてもよいですが、民事再生や会社更生の場合は相殺の意思表示を行わなければできなくなります。相殺する場合、売掛金回収を強制することになるため、発生している売掛金を即刻請求可能なことが必要です。
取引先の倒産で売掛金をすぐ請求できる内容になっている契約書があればよいですが、基本契約が存在せず、期限が先という場合は相殺することが難しくなる場合もあります。
これらのリスクを考えるとやはり基本契約は必ず締結しておいたほうがよいといえます。
取引先に納入した商品が先方の倉庫にある場合
取引先に商品を納入した後で、売掛金を回収する前に取引先が破産してしまったらどうでしょう。
もし納入した商品が取引先の倉庫にあるような場合、その商品を引き取るなどの方法で売掛金を回収することはできるのか気になるところです。
動産の売買では、動産の代価、さらにその利息については、動産について先取特権が存在することになります。
先取特権とは法定担保物件の1つで、民法により債務者の財産について、他の債権者より先立って自己の弁済を受ける権利とされています。
動産売買の先取特権は、破産手続の場合は別除権とされるため、破産手続によらずに行使することが可能です。
動産売買の先取特権で動産競売を開始するなら、
- 債権者が執行官に動産を提出
- 動産の占有者が差押承諾文書を提出
- 債権者が担保権の存在を証明する書を執行裁判所に提出し、動産競売開始の許可を得た上で執行官に許可決定謄本を提出し、執行官の捜索前または同時に債務者に許可決定が送達される
という要件のいずれかを満たさなければなりません。
1または2の場合は、破産管財人から協力を得ることができれば要件を満たすことができますが、もし協力が得られなかったとしても、売買契約書や納品書などがあれば3の担保権の存在を証明することが可能になります。その上で、動産競売開始の許可を得れば、優先して弁済してもらうことができるでしょう。
注意しておきたいのは、取引先や破産管財人がすでに納入した商品を転売しているケースもあるということです。
ただ、破産開始決定前に商品を転売していた場合でも、その転売代金を取引先が受け取る前であれば、転売代金債権を差し押さえることによって、他の債権者に優先して弁済してもらうことが可能になります。
もし納入した商品が取引先の倉庫にあるのなら、売買契約書や納品書などで担保権の存在を証明し、早々に動産競売の申し立てを行って、競売代金から優先弁済を受けて売掛金を回収するようにしましょう。
取引先が売掛金回収前に倒産したときにまず行うこと
売掛金を回収する前に取引先が倒産するような事態はできる限り避けたいものですが、もしそのような事態に遭遇してしまった場合、何から対応すればよいのか確認しておきましょう。
真っ先に行うべきことは取引先がどのような方法で倒産したのか、情報を収集することです。
裁判所に破産手続の開始を申し立てたことによる法的倒産手続きなのか、法的手段ではなく債権者や債務者との合意に基づいた私的整理なのか、それとも2度不渡り手形を出したなど事実上の倒産なのか、いずれかによって行う対応も違ってきます。
さらに、取引先は事業を続けているのか、法的手続をしていないならする予定なのか、現在未回収の売掛金など債権はどのくらい残っているのか、取引先に対する債務はあるのかなどもあわせて確認しましょう。
売掛先が倒産した場合
取引先に売掛金がある場合には、破産手続の最後に取引先の財産からいくらか配当を受け取る流れになるので、先にも述べたとおり満額回収することはまず難しくなり、未回収分は損金処理で対応することになってしまいます。
●貸倒損失の処理
未回収分を損金処理できる時期は、取引先が破産手続を開始する申し立てを行った年度です。取引先の売掛金や受取手形など売掛債権金額の合計の50%を個別評価引当金繰入額として損金計上します。
ただし、相殺や担保権を実行することで回収できる見込みのある金額は除いた分の50%までとなる点に注意してください。
その後、破産手続廃止決定や破産手続終結決定などが出された年度には、債権全額を貸倒損失で損金計上する流れです。
倒産したのが買掛先の場合
もし取引先に買掛金しかない場合には、相手が倒産したのだからもう支払いもなくなったのだろうと簡単に考えてしまってはいけません。
取引先の破産管財人から通知が届き、もし支払わない場合には訴訟という形で訴えられる可能性もあります。
未完成工事がある場合には、破産管財人から工事契約を解除するように要求されるでしょう。契約を解除して出来高に応じた金額を支払い、未完成部分は施主が別の業者と建設請負契約を締結し直すことで工事を完成するという流れになります。そのため、完成が遅れることによる損害が発生する可能性もあるということです。
取引先の倒産の予兆を察知することも大切
昔から、火のないところに煙は立たないという言葉があるように、取引先が倒産するときにも前もって何かシグナルが出ているはずです。そのような取引先が出しているシグナルをかぎ取って対策を講じることをリスクマネジメントといいます。
常にアンテナをはっておき、早期に予兆を察知し、精査する仕組みを持つことが必要であるということです。
取引先がワンマン経営の場合は注意
もし取引先の社長がワンマン経営になっていたら倒産危機の予兆である可能性もあります。ただ、ワンマンなことがすべて「悪」であるわけではありません。ワンマン経営は意思決定がはやいといった部分でのメリットもあります。
メリットもあればデメリットもあるため、取引先が飛ぶ鳥を落とすほどの勢いで急激に伸びているとしても、その背景に勢いを付けているだけの裏付けがあるのかが重要であるということです。
ただのブームや流行による一時的なものであれば、判断を見誤り取引量を拡大することで、いずれそのブームや流行が沈静したタイミングに状況が変わることとなってしまいます。
支払い条件が変更された場合もあやしい
倒産の予兆としてもっともあやしいと考えられるのは、支払条件の変更があった場合です。
たとえば、
- ・締日や支払期日の変更
- ・現金から手形
- ・手形サイトの延長
- ・小額支払いもすべて手形での支払いへと変更
- ・手形ジャンプの要請
- ・支払がなされない
といった状況です。
1つではなく、複数に渡り次々と起きる場合にはかなり警戒したほうがよいでしょう。
それまでは、20日締め翌月20日払いという支払いサイトだったはずなのに、正当さをアピールする言い訳で、月末締めの翌月末払いへの変更を要請されたとします。
たった10日間、支払いサイトが長くなっただけなら問題ないのでは?と思うかもしれませんが、取引先の月商が大きければ大きいほど、この10日間における仕入れ金額の支払いなどへの影響は大きいはずです。
締日や支払期日の延長を申し込まれた場合には、資金繰りが厳しくなってきたシグナルであると警戒しておいたほうがよいでしょう。
●手形決済から現金決済に変わった場合は安心か
近年では手形決済が少なくなり、現金払いを取り扱う企業が増えてきています。
手形から現金に変更されると、長い支払いサイトを待たなくてよくなるため安心だと思うかもしれません。
しかし、手形なら1日でも期日に遅れれば不渡りとなり、仮に半年以内に2度、不渡りが出れば銀行取引は停止となるので、事実上の倒産という形になります。そのため、何が何でもこの期日に間に合うように、企業も手形の決済日には注意して事業を営むこととなるでしょう。
しかし現金での支払いになると、仮に遅れてもそれが倒産に直結しないため、場合によっては少し支払いが遅れるという連絡一本で支払われなくなる可能性もあります。1対1の取引で罰則がないことは、このような支払いが遅延するリスクを高めてしまうともいえるでしょう。
支払いを待つようにお願いされることとなり、本来入金されるはずの期日に売掛金が入金されなかったら…。取引先の売掛金が回収できないせいで様々な支払いができなくなる可能性も出てきてしまいます。
売掛金もファクタリングで期日前に現金化
手形を割り引くように、売掛金もファクタリングという方法で期日よりも先に現金化することができます。
取引先がある日突然倒産することもゼロではありませんので、そのようなリスクを回避するという意味でもファクタリングは有効です。
●ファクタリングの仕組みとメリット
ファクタリングは、保有する売掛金をファクタリング会社が償還請求権なしで完全に買い取ることによって資金が提供されるという仕組みです。
期日よりも前に現金を受け取ることができるので、急にまとまった資金が必要な場面でも対応できますし、ファクタリングにおいて取引先の信用力を重視した審査が行われるので、買い取ってもらえない売掛金だとしたら、危険な状態であるという与信チェックも可能です。
買い取ってもらうことができた場合にも、償還請求権なしということは、もし取引先が倒産して売掛金が回収できなかったとしても、その責任は負わなくてもよいということです。
手形割引の場合には、手形の振り出し先が倒産してしまった場合など、割り引いて得た資金は返還しなければなりません。そのような負担を抱えることがないため、売掛金のオフバランス化や、バランスシートのスリム化を図ることも可能です。
キャッシュフローを改善するという意味でもファクタリングは有効なので、もし取引先の倒産などで売掛金が回収できなくなるという不安を抱えているのなら、ファクタリングで先に資金化することも検討してみるとよいでしょう。
まとめ
取引先が倒産してしまえば、売掛金は回収できなくなり、場合によっては自社の資金繰りにまで悪影響を及ぼして連鎖倒産してしまう可能性もあります。
そのような最悪の事態を防ぐためにも、事前に取引先から倒産の予兆が何らかのシグナルとして出ていないか常にアンテナをはっておくこと、さらにファクタリングなどで先に現金化しておくことなどにより、リスクをマネジメントしながら回避できる方法も検討してみてはいかがでしょう。
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