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損益計算書は黒字でも売掛金の未回収や貸し倒れで倒産してしまう理由

2022年5月23日 / 資金繰り

商品やサービスを販売したとき、その取引は売上として損益計算書に計上されますが、かけ取引による代金は売掛金として計上されます。

掛け取引とはいわゆる「ツケ」払いのことですが、あまりに売掛金が増えすぎると損益計算書上は黒字でも、手元の資金は不足しがちとなり最悪の場合には黒字倒産してしまいます。

売掛金は現金払いによる売上の代金とは違って債権として扱われることとなるため、適切に管理せず損益計算書上の利益にばかりとらわれていると、支払いに充てるお金が足らなくなる可能性があります。

そこで、損益計算書はたとえ黒字でも、売掛金の未回収や貸し倒れの発生により会社が倒産してしまうその理由や背景について解説していきます。

損益計算書に計上された売上の3つの回収方法

商品やサービスを販売したときには、それらを納品または提供したときに損益計算書の売上に計上します。

売上計上後に売上代金を回収しますが、その回収方法は次の3つです。

・商品・サービスを納品・提供するタイミングに現金や小切手で代金を回収する
・請求書を後日発行し指定する銀行口座に振り込んでもらう
・売上になる予定金額を前・内金・手付金などの名目で事前に受け取っておく

このうち、売掛金が発生する取引は、請求書を後日発行して指定する銀行口座などに振り込んでもらったり現金で支払ってもらったりするケースです。

損益計算書の売上と売掛金の関係を知る3つのポイント

売上とは商品やサービスを販売・提供したときの会計処理による勘定科目ですが、計上するタイミングは業種により異なるものの、多くは商品やサービスを販売・提供したときです。

そして売掛金は、先に売上は計上していてもその代金をまだ受け取っていない状態であることを意味します。

そこで、損益計算書の売上と売掛金の関係をもっと詳しく知るために、次の3つのポイントを理解しておきましょう。

  1. 売上を計上するタイミング
  2. 売掛金が増えるメリット
  3. 売掛金残高が多いことによるデメリット

それぞれのポイントについて説明していきます。

売上を計上するタイミング

損益計算書原則によると、すべての費用・収益は支出・収入に基づいて計上し、発生した期間に正しく割当てることができるような処理を損益計算書の本質としています。

さらに未実現収益は原則、当期の損益計算書に計上できないことも記載されているため、この損益計算書の本質としての考え方を「発生主義の原則」と呼んでいます。

発生主義の原則では、費用と収益は発生期間に計上するとされているため、現金の入出金ではなく売上が発生する取引が発生したタイミングで計上することが必要です。

そのため、代金は後払いでも売上は先に計上することになり、まだ回収できていない代金は売掛金という債権で計上することが必要となります。

売掛金が増えるメリット

売掛金とは後払いの代金であり、将来回収することにより手元の現金が増えます。

そのため売掛金が多いと、後で入金される予定のお金も増えることがメリットです。

売掛金残高が多いことによるデメリット

売掛金が多いということはその分、売上も多く上がっているため、経営状況は良好に感じることでしょう。

しかし実際には売掛金は未回収の代金であり、計上した売上に対し売掛金残高の占める割合が高ければ、その中に不良債権も含まれていると判断されてしまう可能性もあります。

回収が困難になっている債権を多く抱えていると判断されれば、銀行などから融資を受けるときの評価が下がる可能性があることはデメリットです。

売掛金を時効で消滅させないための3つの流れ

売掛金は債権の1つであり、いずれ回収できれば手元の現金を増やすことができます。

しかし売掛金はいつまでも有効というわけではなく、時効があるためその期間を過ぎれば消滅してしまうことに注意しましょう。

そこで、売掛金を時効で消滅させず確実に回収しておくために次の3つの流れを理解しておきましょう。

  1. 売掛金の時効までの期間を把握しておく
  2. 時効期間の起算日を確認する
  3. 時効の更新で成立を阻止する

それぞれの流れについて説明していきます。

売掛金の時効までの期間を把握しておく

売掛金にも時効があり、2020年4月1日よりも前の旧民法による時効は職種によって異なっていました。

その期間は1~3年に分けられていたものの、2020年4月1日からは改正された新民法が適用されることとなり、

「債権者が権利を行使することができることを知ったときから5年」

が時効とされています。

なお、「法の不遡及」の原則により事後法は禁じられているため、改正前の取引に改正後の民法が適用されることはありません。

時効期間の起算日を確認する

改正された新民法が施行されたのは2020年4月1日のため、この日よりも前に発生した債権は改正前の民法が適用されます。

時効期間の起算日も改正前の民法と改正後の民法のどちらが適用されるかによって異なる点に注意しましょう。

そこで、

  1. 旧民法による時効期間の起算日
  2. 新民法による時効期間の起算日

を説明します。

旧民法による時効期間の起算日

旧民法による一般の債権の時効は、

「権利を行使することができるときから10年間」

を客観的起算点とします。

また、商事債権は5年、一部の債権は短期消滅時効が適用されるため1~3年とさらに短くなります。

新民法による時効の起算日

新民法による一般の債権の時効は5年に統一されていますが、

「権利を行使することができるときから10年間」

という旧民法の客観的起算点による消滅時効に加え、

「権利を行使することができることを知ったときから5年間」

という主観的起算点による消滅時効が設けられたからです。

「行使できると知ったとき」とは債権者が、

  • ・債務者が誰なのか
  • ・権利が発生したこと
  • ・権利の行使が実際に可能

という3つすべてを認識したときです。

なお、原則は5年ですが、確定判決が出ているときには一律10年ですので注意してください。

時効の更新で成立を阻止する

時効が成立してしまうことを防ぐために、次の2つを実行しましょう。

  • ・「時効の完成猶予」 時効の進行を一時的に停止すること
  • ・「時効の更新」 一定の事由により進んでいた時効期間をリセットしゼロから再スタートすること。

上記の「時効の完成猶予」と「時効の更新」の事由となるのは、主に次の8つです。

  1. 債務者の承認
  2. 裁判上の請求
  3. 支払督促
  4. 強制執行・担保権実行など
  5. 仮差押え・仮処分
  6. 裁判外の催告
  7. 協議を行う旨の書面による合意(新民法で新創設)
  8. 天災等(新民法で時効の完成猶予期間延長)

それぞれの事由について説明していきます。

債務者の承認

債務者が債務の存在を承認することで、時効は更新されます。

裁判上の請求

訴えを提起することにより時効の完成は猶予されます。確定判決により権利が確定したときには時効期間は更新され、その後10年間に渡り時効は完成しません。

訴えが却下されたり取下げられたりしたことで、確定判決による権利が確定しなかったときには、訴えの却下または取下げから6か月間は時効の完成が猶予されます。

支払督促

申立てをすることで時効の完成は猶予され、支払督促が確定することで時効は更新されます。

強制執行・担保権実行など

強制執行などの事由が発生したとき、強制執行を申立てる手続を行うことで、時効の完成は猶予され手続終了により時効は更新されます。

仮差押え・仮処分

仮差押え・仮処分の手続が終了したときから6か月間、時効の完成は猶予されます。

裁判外の催告

裁判外の催告でも6か月間は時効の完成が猶予されますが、時効の更新においては裁判上の請求や支払督促の申立てが必要となるため、裁判外での催告を繰り返しても意味がない留意しておきましょう。

協議を行う旨の書面による合意(新民法で新創設)

権利について協議をすることを書面で双方が合意したときにも時効の完成は1年猶予されます。

なお、当事者の合意により1年よりも短くすることもでき、一方が協議拒絶を書面で通知をしたときから6か月経過したときがそれよりも短いときには、このタイミングまで猶予の効果が発生します。

協議を行う旨の合意を繰り返すことでも時効の完成の猶予を引き延ばすことはできますが、時効の完成の猶予期間は最大5年を超えることはできませんので注意してください。

また、協議による時効の完成の猶予と催告による時効の完成の猶予を併用した時効の完成の延長はできません。

天災等(新民法で時効の完成猶予期間延長)

天災などで時効の完成の猶予と時効の更新の効果をもたらす裁判上の請求や強制執行などができないときには、天災などが消滅したときから3か月経過まで時効の完成が猶予されます。

売掛金が回収できないときに考えられる3つの貸倒損失

もしも取引先に売掛金を支払ってもらえなかったとき、未回収であることが理由で最悪の場合、会社は倒産してしまうこともあります。

売掛金は後払いによる代金のため、すでに商品やサービスは納品・提供しているのに、その代金を回収できないことは死活問題となるからです。

売掛金が回収不能状態であることが明確であるとき、会計処理上は貸倒損失として損金算入することになります。

売掛金が回収不能状態となった場合、貸倒損失として損金算入できるのは主に次の3つのケースです。

  1. 法律上の貸し倒れ
  2. 事実上の貸し倒れ
  3. 形式上の貸し倒れ

それぞれの貸し倒れについて説明していきます。

法律上の貸し倒れ

更生計画認可決定や債権放棄などで強制的に債権のすべてまたは一部が切り捨てられたときなど、法律上で債権が消滅しているときには、会社として損金処理していない場合でも自動的に損金算入されます。

そのため、会計処理上、貸倒損失で損金算入していない場合でも、税務申告では所得の減少として届けることが可能です。

事実上の貸し倒れ

法律上は債権の消滅はしていないものの、債務者の状況から売掛金の回収が不可能と判断されるときには、事実上の貸し倒れとして処理します。

貸し倒れとして計上した金額は損金算入できますが、売掛金全額が回収不能かどうかは客観性が重視されることになります。

形式上の貸し倒れ

形式上の貸し倒れに該当するのは次のようなケースです。

  • ・取引停止してから1年以上経過しているとき
  • ・同一地域の売掛債権総額が取り立て費用より少額で、督促を行っても弁済のないとき

売掛金から備忘価額「1円」を控除した残額が貸倒損失となりますが、1年以上経過しているか弁済がないとき以降の事業年度で貸倒損失により処理します。なお、全額回収不能でなくても損金算入できます。

売掛金を回収する4つの方法

取引先が売掛金をなかなか払ってくれず、いつまでも遅延したままという状態は、会社経営を揺るがしかねない死活問題となりかねません。

そこで、確実に売掛金を回収するために時効を更新した後は、次の4つの方法を実行していきましょう。

  1. 支払督促
  2. 少額訴訟
  3. 通常訴訟
  4. 仮差押え

それぞれの方法について説明していきます。

支払督促

取引先が売掛金の支払いを拒否したときには、裁判所を通じて支払督促を行いましょう。

支払督促とは、債務者に対し裁判所から支払うように督促してもらうことであり、もし相手が意義を申し立てないときには資産を差し押さえることができます。

請求金額に上限はないため、高額な売掛金でも手続できることがメリットです。

少額訴訟

60万円以下の少額の売掛金の場合、少額訴訟で回収することもできます。

少額訴訟は1日ですべての審理が行われ、判決も即日出されることとなるため、早く問題解決したいときにも有効です。

また、和解調書は強制執行力があるため、債務者から支払うことを約束してもらったのに守られないときには、資産を差し押さえることができます。

通常訴訟

高額な売掛金の場合、通常訴訟により回収する方法も検討しましょう。

ただし通常訴訟と一般的な裁判のことのため、仮に判決で負ければ売掛金は回収できなくなります。また、判決まで半年程度かかることも多いため、早く売掛金を回収する方法ではないことは留意しておいてください。

仮差押え

通常訴訟では時間がかかるため、債務者がその期間の間に保有する財産を隠すリスクもあります。

そこで、債務者の預貯金や不動産、自動車などの資産を仮差押えしておくと、勝手に財産を売却することはできなくなるため安心です。

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損益計算書を使った財務分析の方法とは?用いる指標と計算式

2022年1月26日 / 資金繰り

損益計算書や貸借対照表などを参考に、企業の現状や問題点を把握することを「財務分析」といいます。

企業の現状や問題点を損益計算書や貸借対照表から把握する財務分析により、改善点の洗い出しや経営戦略を立てるときにも役立ちます。

そこで、損益計算書や貸借対照表を使った財務分析の方法や、用いる指標や計算式について解説していきます。

財務分析で用いる貸借対照表と損益計算書があらわすこと

「財務分析」の目的は、経営成績を分析して他社と比較することなどですが、「貸借対照表」と「損益計算書」が必要です。

そこでまずは、財務分析で必要となる貸借対照表と損益計算書は何をあらわしているのか説明していきます。

貸借対照表

「貸借対照表」とは、企業の財政状態を明確にするための書類で、一定期間の資産・負債・純資産の金額を把握することができます。

「資産」とは、現金・普通預金・売掛金・土地・建物など保有する財産です。

「負債」とは、買掛金・借入金など第三者に対する支払義務を指しています。

「純資産」とは、資産と負債の差を意味し、保有する自己資本を意味します。

損益計算書

「損益計算書」とは、一会計期間の収益と費用の金額をあらわします。

「収益」とは会社の収入で、「費用」とは会社の支出であり、収益と費用との差が利益として表示されます。

財務分析の目的

財務分析を行う目的は、企業の現状や問題点を把握し、それに基づいた意思決定のためです。

主に次の5つの目的により分類されます。

  • ・収益性分析
  • ・安全性分析
  • ・生産性分析
  • ・効率性分析
  • ・成長性分析

それぞれ説明していきます。

収益性分析

「収益性分析」企業の稼ぐ能力を示すために行いますが、代表的な指標として次の3つが挙げられます。

総資本経常利益率

「経常利益」とは、企業の通常の業務で得た利益ですが、本業の利益以外の家賃収入なども含まれます。

そして「総資本経常利益率」とは、総資本に対する経常利益の割合を示す指標で、企業の経常的活動による業績状態をあらわします。株主や銀行などから集めたすべての資本でどのくらいの利益を稼ぐことができたかという指標といえます。

総資本経常利益率=経常利益÷総資本×100%

株主資本(自己資本)経常利益率

「株主資本経常利益率」は、総資本に対する経常利益の割合を示す指標であり、企業の経常的活動での業績状態を示します。主に株主から集めた資金(自己資本)でどのくらいの利益を稼ぐことができたかあらわします。

株主資本経常利益率=経常利益÷自己資本×100%

経営資本営業利益率

「経営資本営業利益率」は、本来の営業活動に投下される経営資本と、本来の営業活動で生み出される営業利益の比率を示します。会社の本業に特化した収益性をあらわす指標であり、本来の営業活動による資本からどのくらいの本業の利益を稼いだかを示す指標といえます。

企業が本業で稼いだ利益「営業利益」といいますが、粗利益(売上総利益)から販売・営業にかかるコストを差し引いて計算します。

経営資本営業利益率=営業利益÷経営資本×100%

なお、「資本」は建設仮勘定・遊休資産・投資その他繰延資産など除きます。

売上高営業利益率

売上高営業利益率とは、売上高に対する営業利益の割合を示す指標であり、どのくらいが売上高の中で営業利益として残るか意味する本業の業績といえます。

売上高営業利益率=営業利益÷売上高×100%

損益分岐点売上高

損益分岐点売上高とは、「損」と「益」の分岐点となる売上高であり、プラスマイナスゼロになる売上といえます。

費用を収益でカバーできる売上高といえ、損益分岐点以降は利益が出ると判断できます。

損益分岐点売上高=固定費÷{(売上高−変動費)÷売上高}

安全性分析

「安全性分析」とは、企業の支払能力を示す指標であるため、倒産リスクの評価につながります。

短期と長期に分けて分析していきますが、それぞれ次のような指標を用いります。

短期的な財政安全性分析

短期での財政安全性分析を評価するときの指標として用いるのは次の2つで、どちらも企業の短期的な支払い能力を分析するために使います。

  1. 流動比率=流動資産÷流動負債×100%
  2. 当座比率 =当座資産÷流動負債×100%

長期的な財政安全性分析

長期で財政安全性分析を評価するときの指標は次の2つです。

①負債比率(自己資本でどのくらい負債を支払うことができるか示す指標)

負債比率=他人資本(負債)÷自己資本×100%

②固定比率(固定資産が自己資本で賄うことができているか示す指標)

固定比率=固定資産÷自己資本×100%

生産性分析

「生産性分析」では、投入した経営資源に対し得た付加価値を図ります。

「付加価値」とは、労働や設備などに付加した価値であり、それを数値化したものが、「付加価値額」です。

付加価値を得るための人件費や賃貸料など、営業利益に経費を足して価値を算出します。

付加価値額=経常利益+人件費+金融費用+賃借料+租税公課

労働者一人あたりが生み出した付加価値に対する指標は次の2つです。

労働分配率

「労働分配率」とは、会社の付加価値に対する人件費の割合です。

労働分配率=売上総利益÷人件費×100%

付加価値労働生産性

「付加価値労働生産性」は、労働者一人あたりが生み出した付加価値です。

付加価値労働生産性=付加価値額÷平均従業員数

効率性分析

「効率性分析」は、資本などを投下することで効率的に売上や利益を生み出すことができているか示す指標です。

主な指標として、次の2つが挙げられます。

売上債権回転率

「売上債権回転率」とは、売掛金や受取手形など現金化されていない売上債権が効率的に現金化されているか判断するための指標です。

売上債権回転率=売上高÷平均売上債権

総資本回転率

「総資本回転率」とは、総資産でどのくらい効率的に売上を得ることができたかを示します。

総資本回転率=売上高÷総資本

成長性分析

「成長性分析」では、一定期間の成長度合いを示す指標であり、1年間でどのくらい成長できたか分析するために用いります。

売上高・利益・総資本に注目した指標は次のとおりです。

売上高成長率

1年間で増えた「売上高」の伸び率を示す指標です。

売上高成長率=(当期売上高-前期売上高)÷前期売上高×100

経常利益成長率

前期から当期にかけた「経常利益」の成長割合であり、たとえば1年間で増えた経常利益を確認するために用いります。

経常利益成長率=(当期経常利益-前期経常利益)÷前期経常利益×100

総資本成長率

総資本金額が前期との比較でどのくらい増えているか示す指標です。

総資本成長率=(当期の総資本の金額-前期の総資本の金額)÷前期の総資本の金額×100

まとめ

企業がビジネスにおいて重要な経営判断をするときや、第三者に経営状況を説明する上でも、財務分析は重要です。

損益計算書や貸借対照表を使った財務分析での指標は、具体的に何%なら経営が良好と決めることはできません。

過年度の財務分析指標や同業他社と比較することで、自社の現状・強み・弱みを発見することができます。

財務分析は財務諸表数値を使った手法ですが、会計以外のデータや過年度数値の延長線上でない将来予測なども含め、総合的な判断をすることが大切となります。

まずは必要な指標を使って会社の現状を把握し、問題部分の洗い出しと改善を実践していきましょう。

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損益計算書を作成する目的とは?項目ごとに利益を読む方法

2021年12月20日 / 資金繰り

決算書を構成する書類の1つである「損益計算書」は、一定期間の会社の損益を示すため、経営戦略を立てるなどの目的において重要な指標とすることができます。

しかし損益計算書を自社の経営に活かしている経営者はそれほど多くないと考えられますが、具体的にどのような目的に使えばよいのか、項目ごとに利益を読む方法について解説していきます。

損益計算書と会社の損益を示す書類

損益計算書とは、一定期間の会社の損益を示す書類です。

会社の経営状況を把握できる「財務諸表」は、

  • ・損益計算書
  • ・貸借対照
  • ・キャッシュ・フロー計算書

の3つであり、「財務三表」と呼ばれています。

このうち損益計算書会社の収益性・成長性を示すことになりますが、「損益」とは「損失」と「利益」、「費用」と「収入」のことです。

そのため大きく次の3つで構成されます。

  • ・収益(資本金取引以外の営業活動で発生した資産の増加)
  • ・費用(生産や取引などの経済活動に伴い支払う金銭)
  • ・純利益(利益から法人税など差し引いた純粋な企業活動の成果)

損益計算書は収益から費用を差し引いた利益を把握することができる書類なので、どのくらい売上を上げて何にお金を使い、結果的にどのくらい儲けが出たのか読み取ることができます。

言い換えれば会社の1年間の経営成績を示す書類なので、財務分析に利用すれば経営戦略を立てるときの指標となります。

経営状態を分析するときに欠かせない「損益分岐点」

損益計算書を正しく読むことができれば、発生している利益が本業と本業以外のどちらによるものか知ることができます。

さらに損益計算書の変動費と固定費を分ければ、黒字と赤字の境界線である「損益分岐点」を見極め、赤字を回避する経営を続けることができるでしょう。

「損益分岐点」とは、「売上」=「費用」となる金額のことで、売上とそれに対しかけた費用がプラスマイナスになる金額のことです。

どのような業種でも、事業を続けるにはいろいろなコストをかけ、モノやサービスを売って利益を上げることが必要となります。

しかし費用をかけすぎれば利益は出ずマイナスとなってしまいますし、コストを抑えたとしても売上が伸びなければやはりマイナスです。

そこで、赤字経営に転落しないためのギリギリのラインとして「損益分岐点」を把握しておき、その金額を下回らない売上を毎月確保していくようにしましょう。

「費用」の種類

「損益分岐点」を計算するときの「費用」は、

  • ・固定費
  • ・変動費

に分けることができます。

固定費

売上の大きさに関係なく発生する費用「固定費」です。

固定費として挙げられるのは、

  • 事務所の家賃
  • 従業員の人件費
  • 保険料
  • 借入金の利子
  • 事業用不動産の固定資産税

などで、売上増減に関係なく固定して発生します。

変動費

売上によって増減する費用「変動費」です。

たとえば小売業の場合なら商品の仕入れ、製造業なら材料費や加工費などが該当します。

その他、水道光熱費・支払運賃・販売手数料なども含まれます。

損益分岐点の計算方法

「損益分岐点」は、次の計算式で算出できます。

損益分岐点=固定費÷1-(変動費÷売上高)}

または、

損益分岐点=固定費÷(1-変動率)

損益計算書を読めばわかる5つの利益

損益計算書には先に述べたとおり、収益・費用・利益の3つの要素が記載されます。

商品やサービスを販売したことによる売上高から費用を差し引いて利益を算出しますが、利益も1つではありません。

損益計算書の利益は、

  • ・売上総利益
  • ・営業利益
  • ・経常利益
  • ・税引前当期純利益
  • ・当期純利益

の5つに区分されます。

そしてこの利益は、

  • ・営業損益の部(売上総利益・営業利益)
  • ・営業外損益の部
  • ・経常利益
  • ・特別損益の部(税引き前当期純利益)
  • ・当期純利益

という5つの項目にそれぞれ出てきますので、詳しく説明していきます。

営業損益の部

損益計算書で最初に出てくるのが「営業損益の部」で、この項目から確認できることは、本業でどのくらいの利益(損失)を出したかということです。

「売上高」から、販売した商品を準備するためにかかった「売上原価」を差し引き、「売上総利益」を算出します。この「売上総利益」は「粗利」とも呼ばれており、本業で利益を順調に上げることができているか把握することを目的とした指標として使われています。

「売上総利益」から、営業部門の人件費など商品の販売に関連し発生した費用である「販売費」と、原価に直接かかわらない費用である「一般管理費」を差し引けば「営業利益」を算出できます。

この「営業利益」こそが本業の成績をあらわす利益であり、「売上高」に占める「営業利益」の割合である「売上高営業利益比率」が適正か、企業の収益力を確認する目的の指標とすることが可能です。。

売上総利益(粗利)=売上高-売上原価
営業利益=売上総利益-販売費及び一般管理費

営業外損益の部

「営業外損益の部」では、本業以外の活動から発生する収益や費用にはどのようなものがあり、その金額などを知ることができます。

「営業外収益」としては挙げられるのは、

  • ・受取利息
  • ・受取配当金
  • ・有価証券利息

などです。

他にも資本金や準備金に該当しない「余剰金」などで投資を行い、利益が発生したときも含まれます。

また、「営業外費用」に該当するのは、

  • ・支払利息
  • ・社債利息

などです。

営業外収益=受取利息+受取配当金+有価証券利息 など
営業外費用=支払利息+社債利息 など

経常利益

「経常利益」とは、本業による営業活動と本業以外の財務活動を含めた年間の利益(損失)です。
企業の通常業務で得た利益であり、本業の利益以外に家賃収入なども含まれます。

本業で利益を多く生み出すことができていたとしても、たとえば銀行からの借入金返済の負担が大きいと、「経常利益」は少なくなります。

会社がどのくらい稼ぐことができるか示す指標であり、最終的な実績はこの「経常利益」に「特別利益(特別損失)」を加味して計算します。

経常利益=営業利益+営業外収益-営業外費用

特別損益の部

「特別損益の部」では「特別利益」と「特別損失」を確認できますが、どちらも会社の通常の活動で発生しない臨時的な利益や損失です。

「特別利益」に該当するものとして挙げられるのは、

  • ・不動産などの固定資産売却益
  • ・長期間保有している株式の売却益
  • ・債務免除による債務免除益

などです。

「特別損失」として挙げられるのは、

  • ・固定資産除却損
  • ・株式の売却損
  • ・自然災害による損失

などが含まれます。

「経常利益」に「特別利益」を足し、「特別損失」を差し引くことで「税引前当期純利益」を算出できます。

税引前当期純利益=経常利益+特別利益-特別損失

当期純利益

「当期純利益」とは、「税引前当期純利益」から法人税・住民税・事業税など税金類を差し引き計算した利益です。

他にも税金はありますが、この3つ以外の税金は「販売費及び一般管理費」の「租税公課」として計上します。

当期純利益=税引前当期純利益-法人税等

損益計算書の読み方と確認しておきたいポイント

損益計算書を読むことで、企業経営において改善しなければならないポイントを把握できます。

企業分析を目的として損益計算書を使用するときには、主に次のことをポイントして確認していくとよいでしょう。

「売上総利益」を読み取れば戦略の正しさを知ることができる

粗利といわれることもある「売上総利益」は、会社の本業での業績を示します。

この「売上総利益」からは、主に次のことを知ることができます。

仕入価格など「売上原価」の妥当性を知る

「売上総利益」は「売上高」から「売上原価」を差し引いて求めるため、「売上原価」が高ければその分、利益を生むことはできなくなります。

そのため、仕入価格や仕入にかかる費用が妥当な金額か知ることを目的としたとき、その目安として利用することができるでしょう。

商品の優位性を把握するための指標

「売上総利益」を上げるには、他社に真似することのできない独創性に優れた商品や独自の価値が付与された商品が必要です。

仮に販売時期を逃してしまうと価格を下げなければ商品を販売することもできず、利益を上げることもできないでしょう。

「売上総利益」を商品の優位性を把握する目的に利用することで、正しい戦略を立てることが可能となります。

企業の優良さを示すのが「売上高総利益率(粗利率)」

「売上高総利益率」とは、「売上高」に占める「売上総利益」の割合のことであるため、原価を低く抑えているほど高くなります。

数値が高いほど、収益性の高い商品やサービスを提供できていると判断できますが、反対に低ければ収益性が高い商品やサービスを提供していることになるでしょう。

過度に安売りをしていたり適正な仕入価格でなかったり、在庫管理が適切にできていないといったことが背景にあると考え、改善していくことが必要です。

売上高総利益率=売上総利益÷売上高×100

売上高総利益率の目安は業種により異なりますが、たとえば飲食業なら55~70%であるのに対し、製造業などは22~24%程度となります。

本業の収益力は「売上高営業利益比率」を確認

「売上高営業利益比率」とは、「売上高」に占める「営業利益」の割合で、本業でどのくらい儲けることができたか確認できる指標です。

数値が高いほど、本業で利益を生み出す収益力が高い企業と判断できますが、低ければ収益力が見込めない企業とされます。

売上高営業利益比率=営業利益÷売上高×100

「売上高営業利益率」の目安は業種により異なりるものの、一般的には2.8~15.2%であり、優良水準といわれるためには10%を超えることが必要です。

企業の収益性を確認できる「売上高経常利益比率」

「売上高経常利益比率」は、「売上高」に占める「経常利益」の割合であり、財務活動を含む収益性を把握するための指標です。

「経常利益」は、受取配当金などにより左右される部分もあるため、本業による収益性を正しく確認するには「売上高経常利益比率」のチェックが欠かせません。

数値が高ければ営業収益や営業外収益が見込める経営状態にあると判断できます。

もしも「売上高経常利益比率」が「売上高営業利益比率」よりも低ければ、「営業外損益」はマイナスとなるため、銀行などからの借入金利息の負担が大きくなっていると考えられるでしょう。

売上高経常利益比率 = 経常利益 ÷ 売上高 × 100

損益計算書の項目・勘定科目

損益計算書の中で、よく使用する項目・勘定科目には主に次のようなものが挙げれます。

販売費及び一般管理費

  • ・地代家賃…事業のための家賃や駐車場代
  • ・給与…従業員に対する給与
  • ・減価償却費…固定資産の購入費用を使用可能期間分に分割し費用として計上する金額

営業外収益

  • ・受取利息…銀行などから受け取った預金利息など
  • ・受取配当金…投資会社から受け取った配当金
  • ・有価証券利息…社債などから発生したクーポン利息など

営業外費用

  • ・支払利息…借入金に対し支払う利息
  • ・社債利息…社債の債権者に対し支払う利息

特別利益

  • ・固定資産売却益…不動産などを売却して得た利益
  • ・投資有価証券売却益…投資用有価証券を売却し得た利益

特別損失

  • ・固定資産除却損…事業で不要になった固定資産を廃棄したときに損失として計上する固定資産の帳簿価額
  • ・減損損失…事業の収益性が低下したときに計上する損失
  • ・火災損失…火災が起きたことで失った帳簿価額や後片付けの費用

損益計算書を作成する目的

損益計算書は決算書を構成する書類の1つとしてだけでなく、会社の利益を知ることを目的として作成しましょう。

収益から費用を差し引いた利益を確認できるため、何のためにお金を使い、どのくらい売上を上げて出た儲けを読み取ることが可能です。

そして「損益分岐点」を把握しておくことで、赤字ならどこまで売上を上げれば黒字化できるか、黒字でもどこまで売上が低迷すれば赤字へ転落するのか知ることができます。

損益計算書を作成し、定期的に確認することで経営状態を把握できるため有効に利用するようにしましょう。

経営改善を目的として損益計算書を見直すことだけでなく、同業種や過去のデータと比較することで、具体的な戦略を立てていくことができます。

損益計算書を「活用する」ためにも、正しく「読み」、会社の現状を「知る」ことや「改善する」ことへつなげていきましょう。

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