会社経営者は、事業を続ける上で事業承継の悩みを抱えていることも少なくありません。
新規顧客の開拓や人材雇用、法令遵守に業界動向などいろいろな悩みを抱えているものですが、その中で事業承継の問題は大変深刻です。
経営者が引退した後に、事業承継により引き継いでくれる後継者がいなければ、廃業しなければならないなど悩みは尽きません。
そこで事業承継を考えている経営者のために、一般的にどのような悩みが多いのか、その解決策を徹底解説していきます。
目次
事業承継の悩みで多いのは計画を後回しにしがちなこと
事業承継は思いついたとき好きなタイミングでできるわけではなく、計画を立てて準備しておかなければなりません。
しかし本業が忙しく、事業承継のことまで考える暇はないという経営者も少なくないといえます。
いずれは計画を立てて準備に入る必要があるとわかっていても、なかなか手をつけることができず悩みを抱えていることもあるようです。
ついつい先延ばしにしてしまえば、経営者の年齢がかなり高くなってから後継者が決まらない状態となり、廃業しなければならない可能性が出てきます。
事業承継にかかる期間
事業承継にはどのくらいの時間がかかるものか気になるところでしょうが、一般的には5~10年程度といわれています。
ただし誰を後継者にするのか、事業の状況などにより期間は異なります。
後継者教育や株式の段階的な譲渡、従業員や取引先に周知してもらうことなども含めれば、やはり年単位での期間が必要です。
いつから準備を始めればよいか
後継者の育成には5~10年と考える経営者が多いですが、準備に早すぎるといったことはありません。
もっと前から事業承継の計画を立て、準備段階として後継者教育を行っても問題ないといえます。
ただし準備段階において何らかのトラブルが起きた場合でも、事業承継を進めていくことができるような綿密な準備が必要です。
何から始めればよいか
事業承継でまず必要なことは、現状把握と今後の予定を立てることです。
そこで作成したいのが「事業承継計画表」ですが、誰がいつ事業を承継するのかなど基本的な部分だけでなく、事業の現状・将来性・事業承継の方法などを明記していきます。
事業承継計画書を作成すれば事業の現状を正しく把握でき、いつどのタイミングで何をするべきか明確にすることが可能です。
中小企業庁のホームページでも、「事業承継ガイドライン」として事業承継計画書のテンプレートを掲載していますので活用するとよいでしょう。
そもそも誰を後継者にするのか決まらない悩み
事業承継では誰を後継者にするのか決めなければなりませんが、たとえば子がそのまま事業を引き継ぐと決まっているのなら、すぐに事業承継計画を立てることもできます。
しかし子のいない経営者もいますし、子が事業を引き継ぐことを希望しない場合もあります。
その場合、子以外で後継者を決めなければなりませんが、たとえば従業員や第三者に事業を譲渡するといった方法が考えられるでしょう。
なぜ事業を引き継ぐことを拒むのか考えることも必要
事業を引き継ぐ対象となるのは、子だけでなく配偶者・兄弟姉妹・叔父・叔母・いとこ・甥・姪などの親族で検討されることもあります。
ただ、いずれの親族も事業を継ぐことを拒む場合において、たとえばその理由が経営状態にあるのなら経営の見直しにより業績を好転させることで後継者が見つかる可能性も出てきます。
また、事業を引き継ぎたいという思いがある親族がいた場合でも、後の税金負担が気になっていたり自社株式を買い取る資産がなかったりといったケースもあります。
税金や株式移転の対策などを検討しておく必要もあるでしょう。
後継者候補がいても安心して任せることができない悩みがあるなら
経営者は、後継者候補が会社を引き継ぐだけの能力があるのか、不足する部分などを見極めた上で教育することが必要です。
後継者には事業を一通り経験してもらうこととなりますが、この場合にも計画を立てて行う必要があり、時間もかかります。
仮に経営者に子がいて会社を継ぐことを拒んでいる場合には、株式は子に相続させ、経営権は親族以外の従業員や第三者に引き継いでもらうといった方法も可能です。
後継者が見つからないときの対応策
後継者がいないとき、経営者は廃業という選ばなければならないこともあるでしょう。
仮に廃業に至った場合には、それまで働いてきた従業員は仕事を失うこととなります。経営状況や廃業方法によっては、大きな負債を抱えることになりかねません。
廃業しないためには、会社を第三者に譲渡するといった方法も検討できます。実際、中小企業でも後継者が見つからないことを理由に、M&Aを利用する事業承継が増えつつあるようです。
事業承継の相談を誰にすればよいかわからない悩み
事業承継の悩みは誰にでも解決できることではないため、誰に相談すればよいかわからない経営者も少なくありません。
経営者の財産を相続・贈与することなども関係するため、身近な相手に安易に相談すればトラブルになる可能性あるといえるでしょう。
特に親族に相談した場合、お金が絡むことで冷静な議論ができなくなる可能性も出てきます。
自社の役員などは企業の内情にも詳しい場合が多いですが、安易に役員や従業員を後継者にすると決めてしまえば、他の役員や従業員から妬まれてしまい現場の士気が低下する可能性もあります。
また、経営者の弱みを見せていると取られてしまえば、リーダーシップが不足していると判断されてしまうかもしれません。
事業承継の悩みを解決するためには事前の対策を
日本経済を支えているのは中小企業であるといっても過言ではありませんが、経営者の高齢化が進み後継者不足などの悩みも深刻化しています。
そこで事業承継の悩みを少しでも解決につなげるために、事業承継計画を策定し計画的に後継者に引き継ぐことを進めるよう、中小企業庁でも推奨している状況です。
事業承継計画とは、中長期の経営計画に事業承継する時期や具体的な対策を盛り込んだスケジュールを指しています。
まずは誰に事業を承継させるか決めることとなりますが、親族内で承継する・従業員などに承継する・M&Aによる事業承継のうち、どれを選ぶかそれぞれのメリットとデメリットを把握した上で検討しましょう。
親族内で事業を承継する場合
事業承継を親族内で行う場合のメリットとして挙げられるのは、
- ・内外の関係者から心情的に受け入れられやすいこと
- ・早期に後継者を決め、後継者教育などに向けた長期的な準備期間の確保が可能となること
- ・相続などで後継者に財産や株式を移転できるため、所有と経営が分離することを回避できること
などです。
反対にデメリットとして、
- ・経営者としての資質と意欲を併せ持った候補者がいるとは限らないこと
- ・複数相続人がいるときには後継者以外の相続人に対する配慮も必要となり、後継者を決め経営権を集中させることが難しくなること
などが挙げられます。
そこで親族内承継では、関係者の理解・後継者教育・株式と財産の分配について注意しておくことが必要です。
関係者の理解
- ・後継者候補者が複数いる場合には特に、最終的な候補者との意思疎通が重要となる
- ・社内・取引先・金融機関に事業承継計画を公表することが必要
- ・将来的な経営陣の構成を視野に入れながら、世代交代の準備が必要
後継者教育
- ・経営者による直接指導も含め、社内だけでなく社外での教育も必要
株式・財産の分配
- ・後継者に株式など事業用資産を集中させることと、後継者以外の相続人に対する配慮が必要であるといった両方の観点から検討していくことが必要
- ・株式が分散している場合は買取ることも必要
従業員などに事業を承継する場合
従業員などを後継者とし事業承継する場合のメリットとして挙げられるのは、
- ・親族だけでなく会社内外から幅広く候補者を探すことが可能となる
- ・社内で長期間勤務している従業員が承継するなら経営の一体性を保ちやすいこと
などです。
反対にデメリットとなることは、
- ・親族内承継よりも経営に対する強い意志がある候補者が必要なため、適任者を見つけにくいこと
- ・後継者候補に株式を取得するだけの資金力がないことが多いこと
- ・個人債務保証を引き継がなければならないなど問題が発生することがある
などです。
そこで従業員などに事業承継するときには親族内承継の時と同じく、関係者の理解・後継者教育・株式や財産の分配に注意すること、それに加えて個人債務保証や担保の処理にも注意しておくようにしましょう。
関係者の理解
親族内承継よりも時間が多く必要になることが多いため、オーナー経営者の親族の意向をしっかり確認しておきましょう。
それまでは事業を継ぐ気はないと言っていた親族が、突然後継者として名乗り出るケースも考えられます。
特に一時的な中継ぎで従業員などに承継するときには、意思疎通を十分に行っておくことがより必要です。
後継者教育
必要に応じ、社内外での教育を実施するようにしましょう。
株式や財産の分配
株式は後継者の経営に配慮しながら、一定程度集中させることが求められます。
ただ、後継者に資金力がない場合には、株式を買い取ることができないといった問題が起きてしまいます。
その場合、今の経営者の要請に応じ会社法の手法を活用できるため、検討するようにしましょう。
たとえば、親族に財産権を残すために議決権制限株式を発行し取得させるといった方法や、今の経営者が拒否権付種類株式を一定期間保持し後継者の経営にも関与するといった方法が考えられます。
個人債務保証や担保の処理
事業承継前に、できるだけ債務は圧縮しておくようにしましょう。
後継者の債務保証負担が重くならないように、金融機関と交渉を続けることも必要です。
完全に個人保証や担保の処理が難しいときには、その負担に見合う報酬を後継者に対し確保することが求められます。
M&Aによる事業承継の場合
M&Aによる事業承継のメリットは、
- ・身近に後継者候補がいなくても広く候補者を求めることができること
- ・今の経営者が会社を売却したときの利益を獲得できること
などが挙げられます。
反対にデメリットは、
- ・従業員の雇用や売却の価格など、希望する条件による譲渡が可能とは限らないこと
- ・経営の一体性を保つことが難しいこと
などです。
そこでM&Aを成功させるためには、
- ・準備段階で役員・従業員・取引先など関係者に秘密を洩らさないようにすること
- ・専門的なノウハウを持った専門家に相談すること
- ・事業承継の条件や売却金額などは早めに仲介機関に伝えること
- ・交渉相手には自社の都合の悪い部分など隠さないようにすること
- ・M&Aの後の会社環境整備に気を配ること
- ・会社の実力を磨きあげていくこと
といったことを実践していきましょう。
特に会社の実力の磨きあげについては、譲渡先との交渉前に次の項目に注意しながら行うことが必要です。
- ・業績改善・伸長・無駄なコストの削減を実践する
- ・貸借対照表をスリム化する(不要な資産の処分など)
- ・会社の強みなどセールスポイントを作る
- ・役職員に対する業務の権限委譲を計画的に進める
- ・オーナーと企業の線引きを明確化させること(資産の賃借・自家用車・ゴルフ会員権・交際費など)
- ・各種社内マニュアルや規程などを整備する
- ・株主の事前整理を行う
事業計画書で必要な経営理念・事業の中長期目標を設定するには
経営理念を明確化し、事業の中長期の目標を設定するのなら、次の例示を参考にしてください。
経営者と後継者が共同で作業を行い、同じ価値観を共有することが必要となります。
経営理念の明確化
経営理念は経営者の経営に対する思い・価値観・信条などであるため、明確化することにより後継者から従業員まで共有できます。
事業の中長期の目標設定
事業の中長期的な経営ビジョンや将来的な数値目標を設定しましょう。
詳細な会社の事業計画書の作成方法は、中小企業庁発行の小冊子「中小企業の会計31問31答」なども参考にできます。
まとめ
事業承継に関する悩みは経営者にとって深刻ですが、たとえ子や親族に会社を引き継いでもらえなくてもいろいろな方法があります。
いずれの場合も事前に準備を始めておくことが必要であり、計画を立てて行うべきです。
専門家などにも相談しながら、スムーズに事業承継できるような準備や対策を行っていきましょう。
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